Virtual Book Club 第2回:運動が苦手でもOK!身体を動かすことは歓びである

Virtual Book Club第2回:運動が苦手でもOK!身体を動かすことは歓びである

こんにちは、zen place銀座のTomokoです。木の葉が散り始め、朝晩は大分肌寒くなりましたね。更に気温が下がると不調が出てくるので、今の内から身体を整えておこうという方もいらっしゃるでしょう。しかし、運動がもたらす効果は、身体的なものだけではありません。

今回取り上げるのはケリー・マクゴニガル著『スタンフォード式 人生を変える運動の科学』です。彼女の人気作『スタンフォードの自分を変える教室』にあやかって、またスタンフォードの名前がとって付けられていますが、原題は『The Joy of Movement(動きの歓び)』と関係ないタイトル。特にスタンフォード大学で行われた研究だけが取り上げられているわけでもありません。科学的な話半分、運動によって救われた人々のエピソードを交えたanecdotal evidence(事例証拠)半分な感じなので、ガッツリ科学的な内容を求めている人には少し物足りないかもしれません。

それでも、ヨガやピラティスを続ける中で気分が良くなったり、落ち込んでも立ち直りやすくなったり、人に優しくなれたり…という経験をした人にとっては、「なるほど、そういうことだったのか!」と納得のいく事例もあるはず。

運動量と気分の関係

運動量と気分の関係

タンザニアの狩猟採集民族・ハヅァ族には心臓病、うつ病がないと言われています。研究者がハヅァ族の成人に活動量計と心拍数モニターを装着してもらったところ、ランニングなど中~高強度の運動を2時間、ウォーキングなど低強度の運動は数時間にわたって行われていることが分かったとのこと。対してアメリカ人の平均的な成人の中~高強度の運動時間は1日10分未満(確かに意識的に運動しないと、日常でダッシュしたりすることはほとんどないかも…)。

また、もともと運動をしている人に2週間座りっぱなしの生活をしてもらったところ、不安や疲労感が増したという研究結果もあるそうです。毎日の平均歩数が5649歩を切ると、気分の落ち込み・不安の症状が現れるのだとか。ちなみに世界の平均的な1日の歩数は4961歩。リモートワークが増えてから、余計に疲れやすくなった、気分が優れないことが多くなったという方、要注意です!

今まで「ランナーズ・ハイ」はエンドルフィンの作用によるものだと考えられていました。しかし近年「内因性カンナビノイド」という脳内化学物質の関連性が注目されています。内因性カンナビノイドはカナビス(大麻)同様に苦痛を緩和し、気分を向上させる作用があるそう。そしてこの内因性カンナビノイドの血中濃度を調べた際、ウォーキングをした時、全速力で走った時には大きな向上が見られず、ジョギングした時には3倍まで上昇したそうです。「ややキツい運動」を20分程度継続した報酬として、この高揚感が感じられるのだとか。

運動に夢中になるのには時間がかかる?

運動に夢中になるのには時間がかかる?

気分を紛らわせるアルコールに溺れる人がいるのと同様、運動中に分泌されるドーパミン、ノルアドレナリン、内因性カンナビノイド、エンドルフィンなども中毒性があります。しかしドラッグやアルコールには即効性があるのに対し、運動に夢中になれるのには6週間ほどかかります。ジムの新規会員を対象にした実験では、新しい運動習慣を定着させるには、週4回のトレーニングを6週間継続する必要があることがわかったそう。

一方で、「プレジャー・グロス」と呼ばれる条件刺激による快楽についても解説されています。楽しい状況での匂いや音、味、光景、感触などが繰り返されることで、その感覚が快感の引き金になるそう。体育館の匂いや、テニスボールが打ち返される音に快感を覚えたり、お気に入りのスポーツウェアの感触を味わうとやる気が出たりすることはありませんか?運動習慣がなかなか定着しない、という方はお気に入りのウェアを事前に用意しておく、スタジオに向かう時のプレイリストを作る、など条件付けを行うと良いかもしれないですね。

集団的な喜び

集団的な喜び

最近はオンラインでのヨガ・ピラティスのレッスンが定着していますが、「やはりスタジオで他の人と一緒に練習できるのが良い!」という方もいらっしゃいます。人の目があるとサボれないというのも大きなモチベーションになりますが、他者と一緒の動きをするということ自体にも、気分を向上させる秘密があります。実は「他の人が動いているのを視覚で認識する」ことと「自分で動いて、身体の感覚を味わっている」ことを同時に行っていることで、脳は他者のことも自分の一部だと捉えているのです。

他者と自分の動きがシンクロするうちに「一体感を感じる」「自分という境界線がなくなる」という経験を重ねると、だんだんと自分のパーソナルスペースの感覚が広がり、「自分の居場所」だと感じてリラックスできる範囲も広がっていきます。また、エンドルフィンには見知らぬ他人同士のつながりを強化する効果があるので、より社会的な人と人とのつながりが感じられるようになるのです。(面白いことに、バーチャル・リアリティでアバターと踊る実験をしたところ、参加者は好き勝手に踊るアバターよりも一緒に動くアバターに行為を持ち、痛みへの耐性も強くなったそうです。つまり、人間相手でなくてもエンドルフィンの分泌が促されたということ。)

また、スポーツを観戦する際につい身体に力が入ったり、快感を感じたりするのも、脳内のミラーニューロンの働きだと言われています。「人間の共感力は、他人の動作を観察して解釈するミラーニューロン系の働きに根差している」ということで、共感することでスリルを味わえるだけでなく、自分自身の可能性も広がるような感覚が得られます。「他人の動く姿を見て感動することは、希望をつかむ方法でもある」と筆者は述べています。

グリーン・エクササイズの効果

グリーン・エクササイズの効果

それでも今は人との接触を最低限に抑えている、という方は、意図的に緑の中で過ごす時間を増やしてみると良いかもしれません。自然と触れ合うと、自分よりも大きな存在とのつながりを感じやすくなります。自然の中で行われる運動は『グリーン・エクササイズ』と呼ばれ、どんな運動であっても、5分もすると気分が明るくなり、楽観的になると言われています。

韓国の実験では、うつ病の治療を受けている患者に、週1回の認知行動療法のセラピーの前に樹木園で散歩させるようにしました。すると1か月後には6割の患者に改善が見られ、これはセラピーだけを受けた患者よりも3倍高い数字でした。

私たちの脳は、何もしていない安静時であっても常に働き続けています。これはDMN(デフォルト・モード・ネットワーク)と呼ばれ、想像上の会話を繰り広げたり、過去のことを反芻したり、将来の心配をしたりしています。何かに集中している時はDMNの活動が沈静化するのですが、うつ病や不安症を抱えた人はこのスイッチの切り替えがうまくいかなくなってしまうのです。瞑想で「頭の中のおしゃべり」を鎮められることが知られていますが、グリーン・エクササイズにも同様の効果が認められているそうです。

景色の良い道でウォーキングをした際、実験の参加者は主観的なアンケートで「不安が和らいだ」「自分のことでくよくよ悩まなくなった」と答えました。また、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)で脳スキャンの画像を見ると、自己批判や反芻と関連のある脳梁膝下野の活動が低下していました。

瞑想と同様の効果が得られながら、特別な練習を積み重ねなくても良いとしたら、ちょっと遠回りしてでも帰り道に緑の多い公園を通ってみようかな、なんて気になりますね。

オン・ザ・マット/オフ・ザ・マット

オン・ザ・マット/オフ・ザ・マット

他にもこの本には、音楽に合わせて身体を動かすことの歓びや、運動を通して困難を乗り越えることや、人と人とのつながりに感謝できることについて書かれています。

最初に運動を始めるきっかけは、ダイエットだったり筋力強化だったりするかもしれませんが、ぜひ自分の心の変化や、人との向き合い方の変化にも目を向けてみてください。1週間に1時間だけヨガ・ピラティスの練習をしていてもなかなかその違いには気付けないでしょう。だからこそ、日々短時間でも自分の心身と向き合う練習をしたり、日常の中でも意図的に歩く機会を増やしたり、自然に触れたりすることを心掛けてみませんか?練習との相乗効果で、より生き生きと充足感を覚えながら過ごせるようになっていくでしょう

ヨガインストラクターTomoko

Tomoko
ヨガインストラクター

千葉県出身。第一次ヨガブーム世代の祖母や、両親の影響を受けて見様見真似でヨガを始めました。子供の頃から本を読んだり絵を描いたりするのが好きで運動は苦手でしたが、自分のペースで行うことができるヨガには抵抗がありませんでした。

前職・学習塾の講師としての仕事と並行しながらYogaWorksティーチャートレーニング200時間を修了。解剖学を学んだことで、自分自身の身体のことを何も知らなかったということ、そして街行く人もほとんど無意識に身体を動かしているという気づきが大きな衝撃でした。

YogaWorks講師の来日時の通訳も担当しながら、Jennie Cohen、David Kimの解剖学に基づいた明確なアプローチ、John Gaydosの「老若男女問わず誰もがヨガの恩恵を受けることができる」という姿勢に影響を受けました。

今まで自分自身の身体と向き合う機会が少なかった人でも、忙しい頭から一度離れ、自分の身体や呼吸と繋がるお手伝いをします。

  • ■2012年 YogaWorks Teacher Training 200時間修了
  • ■2015年 NSCA(日本ストレングス&コンディショニング協会)取得
  • ■2016年 YogaWorks Teacher Training 300時間修了
  • ■2017年 YogaWorks認定講師