Virtual Book Club 第1回:瞑想が苦手な人のための瞑想本

Virtual Book Club 第1回:瞑想が苦手な人のための瞑想本

こんにちは、zen place銀座のTomokoです。この度Webコラムの連載を担当することになりました。zen placeきってのインドア派として、本を紹介しつつ、ヨガの実践や生活に活かせるヒントをこの場でお伝えできればと考えています。

さて、第1回のテーマは『瞑想が苦手な人のための瞑想本』です。GoogleやAppleでマインドフルネスが取り上げられているということから、この数年で一気にマインドフルネスが多くの人に認知されるようになってきました。集中力やパフォーマンスの向上、リラクゼーション効果、免疫力の向上など、様々な効果が科学的に証明されていますが、「良いとは分かっていても、じっと何もせずに座っているなんて無理!」と思ってしまう人もいらっしゃるのでは?また、身体的な効果が分かりやすいヨガやピラティスに比べ、瞑想はスピリチュアル色が強いと敬遠されている方もいらっしゃるかもしれません。今回ご紹介するのは、成功や名声のためにがむしゃらに働き、人一倍「頭の中が忙しい」メディアの著名人による体験記です。

【1冊目】
『10% HAPPIER~人気ニュースキャスターが 「頭の中のおしゃべり」を黙らせる方法を求めて 精神世界を探求する物語~』 ダン・ハリス著(大和書房)

『10% HAPPIER~人気ニュースキャスターが 「頭の中のおしゃべり」を黙らせる方法を求めて 精神世界を探求する物語~』ダン・ハリス著(大和書房)

著者のダン・ハリスは全国ネットワークABCのニュースキャスター。戦場リポーターとして活躍したのち帰国しますが、戦場でのスリルを求めてドラッグに溺れ、生放送中にパニック発作を起こしてしまいます。うつ病の診断を受け、治療を受けながらも仕事の一環で宗教関連の取材を続けます。やがてスピリチュアル界の大御所の話が仏教の教えと共通していることに気づき、瞑想の実践に取り組み始めます。野心家で成功に取りつかれていた著者が、ほんの少し心の平穏を見つけるに至った過程をつづる回想録です。

筋書きを読むと真面目な内容そうですが、毒舌なハリス氏の語り口に引き込まれます。父親から「安全の代償は不安」であると教え込まれ、いつも気がかりなことを自分で探しています。「たとえるなら、まだ痛いかどうか確かめるために、わざわざ傷を押してみるようなもの」という表現は滑稽でありながら、思わず共感してしまう人もいるのではないでしょうか。常にライバルと自分を比較し、鏡で髪の生え際をチェックしては、「髪が薄くなったら、キャスターから降ろされて失業、ホームレスになる」ということを心配しています。

自分に辛辣なのと同様に、取材で出会ったエックハルト・トール(『ニュー・アース』)やディーパック・チョプラ(『スーパー・ブレイン』)のことも、歯に衣着せぬ物言いで語ります。トールの著書を読み、「人間は生まれてから死ぬまで、ずっと自分の頭の中の声に支配されている」という部分には共感するものの、「美文調の大げさな文体や、エセ科学のトンデモ理論、眉唾ものの体験談はともかくとして、こういった状況(大統領の就任式の報道チームに選出されなかった)に対処する具体的なアドバイスが一切ない」と批判します。スピリチュアル界のスーパースター、チョプラのことも「誰もが知っている精神世界のアイコンで、セレブが自分を「深み」のある人間に見せたかったら、チョプラと並んで写真を撮ればいい」とバッサリ。

トールの主張に賛同したり、一転して罵倒したり、混乱し続けるハリスでしたが、彼の話を聞いていた婚約者から、精神科医で仏教徒であるマーク・エプスタインの著書を紹介されます。そこでハリスはトールの本で良いと思った箇所が仏教と共通していることに気づきます。エプスタインは本の中で、人間が快楽を求めながら決して満足できないという習性をもっていることを、次のように例えています。「味が消えるという感覚を経験したくない。口の中のものがなくなってつまらなくなる前に、すぐに次の料理を詰め込んで味蕾を刺激しなくては」。戦場から帰ってきてドラッグに溺れていたハリスは、まさにこの状態だったのでしょう。

実際にエプスタインに会ってみたハリスは、「強烈な悟りの体験をした」とも「自分はエゴを超越していて、常に『今、ここ』にいる」とも主張しないエプスタインに好感を持ちます。彼からのアドバイスで、「瞑想なんて、私が毛嫌いしているヒッピー文化の象徴としか思えなかった」としり込みしていたハリスも、少しずつ呼吸に意識を向けるエクササイズに取り組み始めます。「瞑想は、厳格な脳のエクサイズだ。暴走する思考を制御するための地道な反復練習だ」と毎日実践することを決意しますが、あれこれ考えてしまう癖を修正していくのは決して簡単なことではありません。仏教のセミナーに参加しても、瞑想合宿(一切会話をせず娯楽も無い状態で10日間の瞑想を行う)中でも、心の中で悪態をついたりくじけそうになったりを繰り返します。

タイトルの『10% Happier』は、瞑想合宿の体験を聞かれた時に「瞑想をすると、今より10%幸せになれるんだ」と答えたハリスの言葉に由来します。瞑想を始めたからと言って、すぐに聖人君主になるわけではないし、世俗的な葛藤から完全に開放されるわけでもない。それでも、頭の中の声を鎮めることができるようになり、自分の心配ばかりではなく他者を気遣うようになっている。そんな小さな幸せを積み重ねるために、瞑想の実践を積み重ねる彼の姿は、(私のような)ひねくれ者の読者には勇気づけられるものです。

この本もオススメ:
『聖書男 現代NYで「聖書の教え」を忠実に守ってみた1年間日記』A.J.ジェイコブズ(CCCメディアハウス)

『聖書男 現代NYで「聖書の教え」を忠実に守ってみた1年間日記』A.J.ジェイコブズ(CCCメディアハウス)

ハリスが仏教の教えを実践するなら、ジェイコブズは旧約聖書を「文字通り」実践します。もともと不可知論者(神はいるともいないとも断言できない)でさほど信仰心が深いわけでもないジェイコブズが、白いローブを着てニューヨークを闊歩したり、聖者のように髭を伸ばし続けたりウケ狙い的な内容かと思いきや、心情の変化も綴られていて興味深い1冊。

【2冊目】
『心がヘトヘトなあなたのためのオックスフォード式マインドフルネス』 ルビー・ワックス著(双葉社)

『心がヘトヘトなあなたのためのオックスフォード式マインドフルネス』ルビー・ワックス著(双葉社)

2冊目の著者は、アメリカ出身でイギリスを中心に活躍する女性コメディアンです。渡英後ロイヤル・シェイクスピア劇団に入り、テレビにも出て活躍し続ける中、結婚・出産も経験します。ずっと走り続けていましたが、ある時クラッシュしてしまい、立ち上がることすらできない入院生活を何カ月も送りました。

その時のことをルビーは「昔から外面的な『成功』を鎧にして、自分の中の手におえないものを覆い隠して生きてきていた」と表現しています。典型的な心理カウンセリングに通ったり、枕を3日間バットで殴り続けた後に、その枕のお葬式を出すセッションを行ったり、霊媒師に会いに行ったり…とありとあらゆる手段を試し、論文を読み漁った後、マインドフルネス認知療法が鬱の改善・再発防止に有効であることを学びます。そしてオックスフォード大学でMBCT(Mindfulness-Based Cognitive Therapy・マインドフルネス認知療法)の修士号を修めます。

本の構成としては、冒頭で上記の経緯が語られた後に、「なぜ心がヘトヘトになるのか」「マインドフルネスとは」「脳の仕組みとマインドフルネスの科学」などマインドフルネスの理論が、コメディアンらしいジョークも交えつつ平易な言葉で説明されています。また、『マインドフルネス6週間コース』として、瞑想の実践や、日常生活に活かせるヒントも掲載されているので、実際のテクニックに触れてみたい人にも大変とっつきやすい内容です。

マインドフルネスを西洋で体系化したジョン・カバット・ジンはマインドフルネスを「今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること」と定義づけました。それがルビーの言葉になると「ポイントは、何かをにらみつけることじゃなくて、自分の内側に耳を澄ませること。そして、浮かんでくる考えに自分であれこれ寸評をつけず、一歩身を引いて自分の気持ちを見守ることです」という表現になります。本格的に学んでいる人にとってはwatered-downされすぎ(薄められすぎ)と感じるかもしれませんが、温かみのある彼女の文章にはホッとさせらるものです。

ルビーは自虐ネタも多く、リトリートで『コンパッション(思いやり・慈悲)』について学んだ時の経験を「リトリートが終わって帰宅する頃には、そこにいた全員をいとおしく感じるようになっていました。この私が、UGGのブーツをはいた、”自称ナチュラル系”ファッションの女性たちとハグしたほど」と毒づく場面もありますが、ハリスの本に比べると大分マイルドです。タイトル通りヘトヘトになってしまっていて、読みやすさ重視の方にオススメです。

この本もオススメ:
『瞑想を始める人の小さな本』パトリッツァ・コラード(プレジデント社)

『瞑想を始める人の小さな本』パトリッツァ・コラード(プレジデント社)

それでももっとお手軽に瞑想エクササイズに触れたいという方は、手のひらサイズの絵本をどうぞ。山のようにしっかりと立って足の感覚に意識を向けてみる、呼吸を意識する、全身でほほ笑んでみる…など5-10分程度でできる簡単なエクササイズがたくさん掲載されています。アートワークもきれいなので、気が向いたときにパラパラめくってみるのも良いでしょう。

さて、この2冊で読んだことを、どうやってヨガの練習に結び付けていったら良いでしょうか?

心理学者ダニエル・ウェグナーは「何かを考えないように努力すればするほど、かえってそのことが頭から離れなくなる」という現象を提唱しました。もしも「シロクマのことを絶対に考えないでください!」と言われると、人はシロクマのことばかり考えるようになってしまいます。ネガティブな思考が浮かんだ時も、それについて考えないようにすればするほど、頭の中が堂々巡りになってしまうことがありませんか?
そんな時に自分の呼吸に立ち返り、思考と自分の間に距離を置くことがマインドフルネスで説かれているわけですが、思考にとらわれ地に足がつかないような状態で、微細な感覚に気づいていくのはなかなか難しいものです。それに対して肉体は、物質として存在しているので比較的感じるのが容易です。ただ周りの人のポーズの形を真似ているという状態から、「今足裏が床にしっかりとついている。膝は曲がっている、背骨は伸びていて、腕は持ち上がっている」というように、一つ一つ自分の身体の感覚を味わうように取り組むように変えていくと、クラス中の集中の度合いも、クラス後の心の軽さも変わってくるでしょう。ポーズに慣れている方も、身体の深部の筋肉の感覚や背骨一つ一つの動きを観察しようとすることで、練習を深めることができます。

そしてキーは「物事を良し悪しでジャッジしないこと」。ポーズができなかった、アライメントが崩れてしまったということで、自分を批判する感情に気づいたら、ひと呼吸ついて淡々とまた練習に取り組んでいきます。

皆さんからもマインドフルな実践を心掛けることで、どんな変化があったか教えていただけたら嬉しいです。またスタジオ(orオンライン)でお会いしましょう!

ヨガインストラクターTomoko

Tomoko
ヨガインストラクター

千葉県出身。第一次ヨガブーム世代の祖母や、両親の影響を受けて見様見真似でヨガを始めました。子供の頃から本を読んだり絵を描いたりするのが好きで運動は苦手でしたが、自分のペースで行うことができるヨガには抵抗がありませんでした。

前職・学習塾の講師としての仕事と並行しながらYogaWorksティーチャートレーニング200時間を修了。解剖学を学んだことで、自分自身の身体のことを何も知らなかったということ、そして街行く人もほとんど無意識に身体を動かしているという気づきが大きな衝撃でした。

YogaWorks講師の来日時の通訳も担当しながら、Jennie Cohen、David Kimの解剖学に基づいた明確なアプローチ、John Gaydosの「老若男女問わず誰もがヨガの恩恵を受けることができる」という姿勢に影響を受けました。

今まで自分自身の身体と向き合う機会が少なかった人でも、忙しい頭から一度離れ、自分の身体や呼吸と繋がるお手伝いをします。

  • ■2012年 YogaWorks Teacher Training 200時間修了
  • ■2015年 NSCA(日本ストレングス&コンディショニング協会)取得
  • ■2016年 YogaWorks Teacher Training 300時間修了
  • ■2017年 YogaWorks認定講師