パンデミックとピラティスの関係性 ~”スペイン風邪”とは?「with コロナ時代」にzen placeができること~

スペイン風邪とピラティス

2020年、新型コロナウイルス感染症拡大が世界で大流行し、多数の感染者、死者を出しました。国内ではパンデミックの第一波を超えたと言われる今現在も、第二波、第三波への警戒をし続ける「with コロナ時代」として、ウイルスとの共存、重症化の予防が重要とされています。

この記事では、1918年に起きたインフルエンザの大流行、史上最悪のパンデミックと言われるスペイン風邪の歴史を振り返り、「with コロナ時代」を生き抜くために「ピラティス」や「ヨガ」が、感染しない、あるいは重症化を避けるための身体作りや、免疫力のアップに対してどのように有効かを紐解いていきます。

スペイン風邪とは?

スペイン風邪とは?

スペイン風邪とは 1918年から1920年にかけて世界で大流行した、H1N1型のA型インフルエンザウイルス感染症です。20世紀に人類が経験した様々な感染症のうち、スペイン風邪は最大の被害をもたらしたと言われており、全人類の約3割にあたる、5億人の感染者を出しました。死者は全世界で5千万~1億人と報告されており、日本では39万人、アメリカでは50万人が亡くなりました。

なぜ「スペイン風邪」と呼ばれているの?

流行当時は第一次世界大戦の最中で、ほとんどの参戦国では情報統制が敷かれていましたが、中立国であったスペインでは情報統制がされていませんでした。スペインでの流行が報道されたために「スペイン風邪」と呼ばれましたが、実際には、最初に流行が確認されたのはアメリカだと言われています。

免疫異常「サイトカインストーム」

スペイン風邪の症状の多くは季節性インフルエンザと共通していましたが、スペイン風邪の致死率が高かった理由の一つに「サイトカインストーム(高サイトカイン血症)」があります。
サイトカインとは、細胞と細胞の相互作用に関わる低分子タンパク質のことで、サイトカインには「炎症性サイトカイン」と「抗炎症性サイトカイン」の2種類があります。これらはアクセルとブレーキの関係になっており、一方が炎症を引き起こし、他方がそれを抑える、という働きをし、健康な状態ではバランスを取り合っています。

ところが、外部からウイルスが侵入すると、免疫系がウイルスを攻撃しようとし、炎症性サイトカインを全身に大量に送り出します。すると、アクセルとブレーキのバランスは崩れ、自分の正常な細胞までも攻撃してしまう自己免疫疾患を引き起こし、多臓器不全を引き起こしてしまうのです。スペイン風邪では、この「サイトカインストーム」が原因で多くの人が亡くなりました。

サイトカインストームは、2020年の新型コロナウイルス感染症にかかった人が亡くなる原因として最も多いものの1つ、とも言われています。

スペイン風邪の日本での流行

スペイン風邪の日本での流行

日本では、スペイン風邪は、1918年10月頃から本格的に流行しました。当時、国内の鉄道網はすでに整備されていたため、ウィルスが上陸すると、3週間という短期間のうちに全国各地に広がったそうです。10月末になると、経済活動や公共サービス、医療に支障が出はじめ、全国での患者数は約1か月で56万9960人、そのうち4399人が死亡したとされています。

当時、感染予防のためのマスク装着や、現在のソーシャル・ディスタンス、咳エチケットのような内容の奨励や、旅行や不要不急の集会の自粛、運動会や修学旅行の見合わせ等の通知が各自治体から出され、日々増え続ける患者数が連日報じられていたそうです。

ウイルスは数ヶ月で地球を巡り、終息に2年

当時、大陸を横断する最も早い交通手段は蒸気船でしたが、人々の移動と共に、スペイン風邪は短期間で世界中に感染を拡大しました。終息までパンデミックを複数回繰り返し、集団免疫が形成されウィルスが封じ込められるまで2年間かかったと言われています。世界の各地で医療、経済、教育等に大きな打撃を与えたスペイン風邪は、過去の様々な感染症や、戦争・災害を含めた全てのヒトの死因の中で、最も多くのヒトを短期間で死に至らせた記録的なものとして、歴史に残っています。

スペイン風邪とピラティス

スペイン風邪とピラティス

ピラティス・メソッドを考案したジョセフ・ピラティス氏は、1883年にドイツの小さな街で生まれました。幼少時代はリウマチ熱、くる病、喘息などを患い、非常に病弱でした。彼は、病気を克服するために東洋西洋問わずさまざまな身体訓練法やスポーツを行い、10代半ばで克服したと言われています。身体機能を高め、真の健康を得るためには、身体活動の全てを理解しそれらを完璧にコントロールすることによって得られる、という確信を持ち、その後も研究を重ねていました。

1914年第一次世界対戦が勃発し、イギリスで捕虜となった彼は、負傷した兵士達に向け、病院のベッドを改造してエクササイズ器具を作り、リハビリを行いました。兵士たちは体力と全般的な身体の健康を取り戻していき、‪1918年にスペイン風邪が大流行した時も、ピラティス氏の収容所で彼の考えたエクササイズを行っていた人は誰一人としてスペイン風邪にならなかった、と言われています。ピラティス氏はこのメソッドを「コントロロジー」と呼び、これが現在のピラティス・メソッドの始まりです。

ピラティスと免疫力の関係

感染症を重症化させないためには、免疫システムを正常に機能させていくことが重要です。ピラティス氏のエクササイズを行った兵士は誰一人として命を落とさなかったというエピソードについて、より深く理解していくために、ピラティスと免疫力の間にある関係を紐解いていきましょう。

ピラティスと免疫力の関係

私達の免疫システムは、リンパ系の働きによって作られています。
免疫とは、細菌やウイルスから、からだを守ってくれている防御システムのことです。体にある多くの免疫細胞たちは体中をめぐる血液とリンパ液に乗ってウイルスや細菌を探し、それらを攻撃したり、抗体を作り破壊したりする働きをします。リンパ系は心臓のように自律的に動くものではなく、筋肉の収縮により流れが促進されることでその効果を発揮します。
リンパの流れを促進する‪代表的な筋肉は、体幹にある腹横筋(ふくおうきん)と、ふくらはぎの筋肉です。腹横筋は、腹筋群の一番深いところにある深層筋(インナーマッスル)のことで、腹横筋の収縮は内臓の収縮を促進し、臓器が正常に働くための手助けをします。ふくらはぎは第2の心臓と言われており、静脈還流を促すポンプの役割を担います。
‬‬ピラティス・エクササイズには、この二つの筋肉に特化している動きが多く取り入れられているため、習慣的に行うことでリンパ系システムが自然に整えられていくと、私たちは考えています。

また、免疫システムは自律神経の支配を受けており、免疫が正常に機能するためには、自律神経がバランスよく働いている必要があります。‬しかしながら、ストレスが過剰になったり生活習慣が乱れたりすると、自律神経のバランスは乱れ、同時に免疫システムの機能も低下していきます。
ピラティス・エクササイズは、身体の細部や呼吸に意識を集中させて背骨を中心に全身を動かして交感神経を刺激し、全身の活動力を高めていきます。交感神経が活発になることで、血液が筋肉や脳に活発に行き届き、脳と全身のつなぐ神経が活発になるため、身体だけでなく脳の状態、心の状態を良くしていくことができます。
ピラティスは、心身を一体とするエクササイズです。単なる身体の外側を鍛える筋トレやフィットネスではなく、身体の内側のインナーマッスル、神経系を刺激することで、免疫系などの強化も促す効果があるのです。

スペイン風邪が大流行の中、決して衛生環境が良いとは言えず、ストレスが過剰になりがちな負傷兵士達の収容所において、ジョセフ・ピラティス氏のエクササイズを行った兵士が誰1人としてスペイン風邪に罹らなかったことは、コントロロジー(ピラティス・メソッド)の実践が、兵士の自律神経のバランスを整え、免疫システムの機能を保ち続けたことが大いに影響したであろうと私たちは考えています。

「with コロナ時代」にzen placeができること

「with コロナ時代」にzen placeができること

新型コロナウイルス感染拡大により、世界全体が、医療サービス、経済、教育、流通などに大きな打撃を受け、大きなストレスに晒されました。そして「with コロナ」を意識した生活が「ニューノーマル」となっていくことが、分かっています。

不安や恐怖が、予測しうる問題の何倍も頭の中で膨らみ「大脳の暴走」状態になると、大きなストレスとなり私たちの自律神経や免疫に影響を及ぼします。
この暴走を静めるのに、ピラティスやヨガの動きによる瞑想が効果を発揮すると私たちは考えています。大脳の暴走を止め、大脳皮質が正常に機能させ、大脳辺縁系と脳幹と正常に連携していく身体を作る、というのが、zen place のピラティス、zen place のヨガの本質です。

この機会にぜひ、ピラティス・ヨガの実践を習慣にし、「withコロナ時代」を心身ともに健康に乗り越えましょう。

参考・出典:
『医学は歴史をどう変えてきたか』アン・ルーニー 東京書籍
『史上最悪のインフルエンザ-忘れられたパンデミック 』アルフレッド・W・クロスビー みすず書房
『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ―人類とウイルスの第一次世界戦争 』速水融 藤原書店
『新型インフルエンザパンデミックに日本はいかに立ち向かってきたか: 1918スペインインフルエン ザから現在までの歩み 』岡部信彦/和田耕治 南山堂
『感染症対人類の世界史』池上彰/増田ユリア ポプラ新書 ⑥ 『感染症の世界史』石弘之 角川ソフィア文庫
『コントロロジー―ピラティス・メソッドの原点(日本語)』ジョセフ・ヒューベルトゥス ピラティス(翻訳:川名昌代)万来舎
ストレスによる免疫能の変化と脳・免疫連関 (永田頌史)
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