04|坐坐奔奔「長い月日をかけて“型”となり、文化となった芸能に魅せられて」
こんな本屋に、行きたかった
こんな本屋に、行きたかった
05|本に没頭できるカフェGoodRack「本を“読んだら終わり”のものにしたくない」

ーー訪れる人が、”本棚を育てる”。|読者の紡いだ言葉が生みだす、人と本の新たな出会い。「本に没頭できるカフェGoodRack」店長・佐藤智里さんの1日【こんな本屋に、行きたかった vol.5】
連載企画「こんな本屋に、行きたかった」。第5回は山手線・高田馬場駅から歩いて約4分、ヴィンテージマンションの一室をリノベーションした「本に没頭できるカフェGoodRack」(以下、GoodRack)です。駅前の喧騒とは打って変わった、静けさに包まれた店内からは、季節の花々が咲く庭を望むことができます。
余白のある席のレイアウトは、主におひとり様に向けたものですが、本を読む場所だけでなく本を通したコミュニケーションやイベントを大切にしていると話すのは、店長・佐藤智里さん。
「本を読むだけじゃなくて、“この本を読んでよかった”と思える瞬間を、誰かと共有できる場所をつくりたかったんです」
佐藤さんのお話は、本を“読んだら終わり”のものではなく、人を繋ぐものでもあること、そして自身の思いを言葉にすることの大切さを改めて考えさせてくれるものでした。

「自分のためだけの時間が流れる。お客さんにとって、そんな場所になれたら」
オープンした2024年8月から、「GoodRack」店長として働いている佐藤さんですが、以前はeスポーツ業界でイベント制作・キャスティングをしていたそうです。
「正直、とても忙しい業界だったので、24時間365日仕事のことを考える日々でした。仕事と生活の境界線が曖昧で」
「何かに没頭することで価値が生まれる」と考えるオーナーが、“本に没頭できる場所があったら、きっとそこに価値が生まれるはず”という想いからスタートした読書カフェ。
ちょうど前職を退職したタイミングで、その計画を聞き、実際に読書カフェを形にするための店長として、自身の本との思い出、経験を活かして店長に挑戦することにしたそうです。この形になったのもご縁とタイミングあってのことだったと振り返ります。

「コンセプトは“本に没頭できるカフェ”。仕事が忙しかったり、喧騒の多い都心で過ごしたりすると、自分のための時間ってとるのが難しいですよね。なので。“GoodRackに行けば、本との時間だけが流れる”。そう思ってもらえる場所になれたら嬉しいです」
現在は土日を中心に営業、週末はゆっくりと本を読みたい方、静かな場所で読書を楽しみたい方が通ってくださり、時間や混雑を気にせず、読書時間に浸れる“本に没頭できるプラン”も人気だそうです。
「店内にある本はもちろん、持参した本・電子書籍でも問題ありません。お一人おひとりが好きな読書スタイルで、この空間を楽しんでいただけたら嬉しいです」

「育てる本棚」「Good Rackers」で繋がる人と人、本と人
「GoodRack」の一角には、購入ができる本が並ぶ「小さな本棚本屋GoodRack」があります。佐藤さん自身のおすすめ本や本を“語らう”、ブックバーイベントで紹介された本などのほか、タイトルを伏せた“シークレット本”も並びます。
「“なんとなく本が置いてあるカフェ”にはしたくなくて。自分の意思だけでは手に取ることがなかったであろう本を、誰かのおすすめで手に取る。そんな出会いも、面白いなって思っています」

そして店内の本棚や本の間などには時折、お客さん、そして佐藤さんの作品への想いが綴られたメモ書きが残っています。
「このメモ書きは“育てる本棚”という取り組みの一つで、本を読んだ方が感想を書き残し、それをきっかけに、また別の誰かが本を手に取っていく。その循環が生まれればと思っています。また、コメントを書くこと自体を楽しんで下さっている方も多くて。知らない間に本の間にカードが挟まっていて、“書いてくれてたんだ”って気づくこともあります」
また、不定期で開催される「Rack Talkers」には、本を“読んで終わり”というものにしたくないという佐藤さんの想いが込められています。

「本って、一人で静かに読むものではあるんですけど、私自身、本にまつわる思い出って、誰かと一緒にいた記憶とつながっていることが多くて。誰かと本を貸し借りしたこと。 友人と図書館へ行ったり、 好きな物語について語り合ったりした時間。内容よりも本を通じた体験のほうが、記憶に残っていることが多いんです」
この本を読んでよかったと思える瞬間を、誰かと共有できる場所をつくりたかったそうです。静かに読書を楽しむ時間と、本を通じて人とつながる時間。 そのどちらも大切にしながら、「GoodRack」という場所は少しずつ育っていきました。

「お客さんの生活に「GoodRack」が溶け込んでいるのが、何より嬉しい」
「GoodRack」には、読書のためだけではなく、“ひと息つくため”に訪れる人も多いそうです。
「新宿に出かけたけど、人が多くて疲れちゃったから、ここでゆっくりして帰ろうと思って、とか。お子さんを預けられた日に、一人時間を過ごしに来てくださる方もいます」
中には、「今週はここに来るために頑張りました」と話してくれる人もいるのだそう。
「GoodRack」へ行くこと自体が、日々の楽しみになっている。この場所が誰かの日常の支えになっていることを感じられるといいます。また、店を通して、お客さん同士のつながりが生まれていることも嬉しい出来事のひとつ。
「読書会のあとに、そのままご飯に行ったんですって話を聞いたり、ここで仲良くなった方同士がつながっていたり。本をきっかけに、人と人が自然につながっているんだなって感じます」

「良い本」は何度も読みたくなってしまう本
「何度も読みたくなる。そして読んだ後も、ずっと心に残り続けること。
新しい考え方に出会い、誰かの思い出に繋がったりするものが、良い本なのかなと思います。ただ、私自身もその時々で変わっていくので、これが良い本と言い切るのはなかなか難しいですね」
本を読む時間も、心に残る理由も、人それぞれ。
「GoodRack」には、誰かにとっての“大切な一冊”と出会えるきっかけが溢れています。

今いる場所で、どう生きるか。一つの指針が記された『十二国記 ―月の影 影の海―』
「「GoodRack」をオープンするときに、友達から“ブックカフェの店長になるなら読まなきゃ”ってプレゼントしてもらったんです」
読み始めると、一気に物語に引き込まれたといいます。
シリーズを夢中で読み進め、昨年には『十二国記』の読書会も開催しました。
「読んでいる間、本当にその世界を行き来して生きているような感覚があって。全然知らない世界のファンタジーなんですけど、自分の生活に刺さる言葉やシーンがすごく多かったんです」
中でも印象に残っているのは、主人公が“その世界で生きていく覚悟”を決める場面。
「つらいことがあっても、“今いる場所で生きていく”って覚悟する姿に、すごく元気づけられました。一言では全然語り尽くせないくらい、大切な作品です」

大小関係なく、明日に楽しみが待っていること
「GoodRackをオープンするときに、自分が将来どうなりたいか、ロードマップを考えたことがあって。その時、“明日が楽しみであること”が、自分にとっての幸せだなって思ったんです」
それは、大きな夢や特別な出来事ではありません。読みかけの本の続きを、明日読むのが楽しみなこと。
朝起きたら、好きなものを食べようと思えること。
「本当に、そういう小さなことなんです。でも、“明日が楽しみ”って思える毎日が、すごく幸せだなって感じます」



