映画ライター・よしひろまさみちの、ほぼ週刊映画コラム「後は、ご自由に」

#13『レディ・バード』|映画ライター・よしひろまさみちの、ほぼ週刊映画コラム「後は、ご自由に」

映画ライターで日本アカデミー賞会員のよしひろまさみちさんが、毎月のテーマに合わせて作品を紹介する、ほぼ週刊の映画コラム「後は、ご自由に」。

6月のテーマは、一人の女性の視点をベースに本質への気づきを与えてくれる映画。第13回は、進学を機に閉塞的な街からニューヨークへ抜け出そうとする少女の、痛々しくも、愛らしい青春を描いた『レディ・バード』をご紹介。

カルチャーへの渇望、やり場のない尖った感性。誰にでもあった青春だからこそ、忘れかけていた本質を見直すきっかけに

俳優が監督や脚本家に転じる、または並行させることはよく耳にすること。ですが、傑作を残すことは稀。今回紹介する『レディ・バード』は、『20センチュリー・ウーマン』などでその芝居を高く評価されたグレタ・ガーウィグが、初めて監督した自伝的な青春映画です。

サクラメントの郊外でおかたいカトリック系の女子高に通うクリスティンは、自らのことをレディ・バードと名乗るちょっと変わった女の子。高校生活最後の年を迎えて、彼女は閉塞的な街から逃れるためにもNYの大学を志望します。

ところが西海岸の名門校を卒業しながらも就職できずにいる兄と、うつ病で仕事もままならない父の存在ゆえに、一家の大黒柱で看護師の母親からは猛反対。その反発からクリスティンは母の運転する車から突然飛び降り、右腕を骨折しギプスの生活を送ります。

カルチャーへの渇望、やり場のない尖った感性を持て余していた彼女は、なかばやけくその初恋に……。家族を愛しつつもそんな家族に悩まされ、思う用意行かない鬱屈とした青春をなんとか打破しようともがく姿をユーモアたっぷりに描いています。

最初に見た時は、これが初監督作? と驚きを隠せませんでした。じつはこのようなテーマ性をもった作品はこれまでにもいくつかあり、その中でも傑作とのほまれ高い『ゴーストワールド』を超えるものはありませんでした。

主人公の主観的な視点ながらも、彼女自身はもちろん家族や学校社会を客観的にとらえることにも成功しており、おまけに彼女を苦しめる家庭問題は現代的。共感度が半端ないことでも、第90回アカデミー賞で作品賞を含む複数でノミネートされたのが頷けます。

そもそも彼女がなぜに自分のことをレディ・バードと名乗るのか。彼女が突拍子もない行動に出る原因は何なのか。非常に分かりやすく描かれているものの、その根は深く多方向に枝分かれしています。

それゆえに、ご覧になる人たちも自分事としてとらえやすくなる仕掛け。青春真っ只中の方が見たら、レディ・バードを自分としてみることになるでしょうし、大人が見たら青春時代の理不尽や小っ恥ずかしさを思い出すでしょう。

思春期にある根拠のない絶対的な自信と大人への反発は千差万別ではあるものの、誰にでもあるもの。共鳴しながらも、自分の心の奥底にしまったものを覗き見るような感覚で楽しんで下さい。

よしひろまさみち

よしひろまさみち

東京都出身。映画ライター。日本映画ペンクラブ。日本アカデミー賞会員。ゴールデングローブ賞International Voter。音楽誌や女性誌などで編集部員として業務に従事した後、28歳で独立。日本テレビ「スッキリ」で月1回の映画コーナーを11年間に渡って担当したほか、現在も数多くの雑誌やWebメディアで映画紹介の連載を担当。語りかけるような文体や作品と丁寧に向き合ったからこそ綴られる多角的な見解で、多くの映画ファンに支持されている。

Instagram: hannysroom
反田 零

反田 零

神奈川県出身。二級建築士。青山製図専門学校卒業後、設計事務所に入社。2021年よりイラストレーターとしての活動を開始。iPhoneのディスプレイに指で直接描かれる、色鮮やかで情緒的な作風が注目されている。雑誌「Numero TOKYO」の企画や、アーティストがリリースする楽曲のジャケットデザインなども手掛ける。

Instagram: k_sotta_rei

『レディ・バード』
監督:グレタ・ガーウィグ/出演:シアーシャ・ローナン、ローリー・メトカーフ、ルーカス・ヘッジズ、ティモシー・シャラメ ほか/DVD、Blu-ray発売中(販売:ハピネット・発売:NBCユニバーサル・エンターテインメントジャパン)/配信:U-NEXTほかにて配信中

文/よしひろまさみち 
絵/反田零
記事制作/株式会社ZEN PLACE

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