しあわせのカタチ

映画ライター・よしひろまさみちの週刊映画コラム「後は、ご自由に」

#10『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』|映画ライター・よしひろまさみちの週刊映画コラム「後は、ご自由に」

映画ライターで日本アカデミー賞会員のよしひろまさみちさんが、毎月のテーマに合わせて作品を紹介する週刊映画コラム「後は、ご自由に」。

5月のテーマは、頑張れない日があってもいいと思えるようになる映画。5月第2週目は、この世に生があるうちにできること、すべきことは常に心に留め、ことあるごとに思い出すのが大事ということを教えてくれる『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』をご紹介。

日常生活を送るなかで自分だけが大事と思ってしまうことがあったら、一旦ストップ

今回紹介する作品は、まさかの「何も起きない」映画です。『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』は、その名の通り、ある幽霊を主人公に、最愛の人を思いつづける物語。

平屋の一軒家で幸せな生活を送る夫婦に、突如訪れた別離。男は事故で他界し、妻はひとりになります。そんな彼女を深く愛する夫は、シーツを被った幽霊となり、病院の霊安室からマイホームへ帰還。当然のことながら、妻に彼の姿は見えていませんし、彼もそれを理解しています。ただただ妻を見守ることしかできない彼の姿は切なく、ときに滑稽に映るかもしれません。

この作品のすごさは、人間を主人公にしていないことで、極端に時間軸を伸び縮みさせ、「そこにありつづける」存在を可視化していることです。自分や他者の力ではなく、何か見えないものが作用して突き動かされることってありませんか? それが霊でないにしても、目に見えないものであることだけはたしか。

この映画では、幽霊の男が見えている人はひとりも登場せず(向かいの家にいる幽霊には見えていますが)、幽霊側の視点で描いているのに実世界からは全くスルーされる存在であり続けます。とてもユニークな描き方ですが、観る人によってこの作品の見え方は違うでしょう。

「こんな風に空気みたいな存在になってしまいたい」と感じる人もいるでしょうし「思いがこの世に残存しているのに報われない」と切なく思う人もいるでしょう。どうとらえてもOKですが、一番に考えてほしいのは「死してなお大事にする存在」の有無。

それはパートナーでも家族でも、ペットでもなんでもいいですが、日常生活を送るなかで自分だけが大事、と思ってしまったり、そんな存在を大事にできていないことってありませんか? ひとりになる、何もしない、何もできないのは、この作品の主人公のように幽霊になってからいくらでも、そして時間もたっぷり。

でも、そうなってからでは遅いんです。この世に生があるうちにできること、すべきことは常に心に留め、ことあるごとに思い出すのが大事。この幽霊のように、永遠のような時間のなかで苦しむくらいなら、少しでも今というとき、それを共有する存在を大切にすべきではないでしょうか。

よしひろまさみち

よしひろまさみち

東京都出身。映画ライター。日本映画ペンクラブ。日本アカデミー賞会員。ゴールデングローブ賞International Voter。音楽誌や女性誌などで編集部員として業務に従事した後、28歳で独立。日本テレビ「スッキリ」で月1回の映画コーナーを11年間に渡って担当したほか、現在も数多くの雑誌やWebメディアで映画紹介の連載を担当。語りかけるような文体や作品と丁寧に向き合ったからこそ綴られる多角的な見解で、多くの映画ファンに支持されている。

Instagram: hannysroom
反田 零

反田 零

神奈川県出身。二級建築士。青山製図専門学校卒業後、設計事務所に入社。2021年よりイラストレーターとしての活動を開始。iPhoneのディスプレイに指で直接描かれる、色鮮やかで情緒的な作風が注目されている。雑誌「Numero TOKYO」の企画や、アーティストがリリースする楽曲のジャケットデザインなども手掛ける。

Instagram: k_sotta_rei

『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』
監督:デヴィッド・ロウリー/出演:ケイシー・アフレック ほか/DVD、Blu-ray発売中(販売:ハピネット・発売:NBCユニバーサル)/配信:プライムビデオ、U-NEXTほかにて配信中

文/よしひろまさみち 
絵/反田零
記事制作/株式会社ZEN PLACE

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