16|吹っ切れ
金継ぎGolden Joinery
「大切なものは、ごくごく個人的なもの」。静かに夏を迎えた、鵠沼のアトリエ「金継ぎGolden Joinery」で器を復す、大脇京子さんのひととき

ーー「大切なものは、ごくごく個人的なもの」。静かに夏を迎えた、鵠沼のアトリエ「金継ぎGolden Joinery」で器を復す、大脇京子さんのひととき
割れた器を漆や金粉を用いて修復する、金継ぎ。藤沢市、江ノ島電鉄「鵠沼」駅から徒歩1分の場所にアトリエを構える「金継ぎGolden Joinery」主宰・大脇京子さんは、これまでに1,000点近くの器を金継ぎで修復してきました。
大脇さん自身、金継ぎを始める以前は、金継ぎには敷居が高いイメージを抱いていたそうですが、習い始めてから、そしてアメリカ・サンフランシスコで開催したワークショップで、そんな先入観がガラリと変わったそうです。
「大切なものとは、ごくごく個人的なもの」。そう気づいた大脇さんは、一人ひとりの想いに寄り添いながら、今日まで器と向き合っています。ものを大切にすること、人と過ごすこと。その先にある幸せについて伺いました。

割れた器が巡り巡って教えてくれた「大切」という価値観
「高価だから大切かというと、そんなことはないと思っていて。大切であるか否かは、個人に委ねられるものなのではないでしょうか」
そう話すのは、鵠沼にあるアトリエを拠点に金継ぎ教室や修復を担う「金継ぎGolden Joinery」主宰・大脇京子さん。割れた跡を「景色」と捉え、不完全を慈しむ。そんな想いを世に伝えるきっかけとなったのは、大切にしていた器が割れてしまったことがきっかけでした。

「元々、金継ぎには興味があったのですが、習い始めたのは大切にしていた器を子どもが割ってしまったことがきっかけです。ただ、当時住んでいた熊本で教室を見つける事が出来ず、福岡まで通って技術を学び始めました」

「大切なものであるかは、人それぞれに委ねられる」。サンフランシスコのワークショップで気付かされたこと
金継ぎを学び始めた後、大脇さんは家族でアメリカ・サンフランシスコへ渡ることになります。そこで偶然、日本の美術品を扱うギャラリーのオーナーと出会い、金継ぎのワークショップを催すことに。そして、その時間が大脇さん自身の価値観を大きく変え、原点ともなりました。
「私自身、金継ぎでは高価なものを直す、敷居の高いイメージを抱いていました。ただ、そのワークショップに集まった人たちが持ち寄ったのは、”それぞれが大切にしているもの”でした。正直、他人から見たら価値を感じづらいものも多く見受けられました」

「「こんなものを直すんだ!」と驚きもありつつ、「大切なものは人それぞれで、ごくごく個人的なもの」と、逆に教えてもらえる貴重な時間でもありました」
以来、その経験が「金継ぎGolden Joinery」で教室を催すとき、また修理の家愛を受けるときも心持ちとなっているそうです。

伝統に偏り過ぎず、器一つひとつを見つめる。「時間と工程を重ねるからこそ表れる、表情を大切にしたい」
「時間を重ねるからこそ表れるシミだったり、手で触り続けたからこそ生まれるツヤもある。そんな表情をこれからも慈しめるよう、金継ぎでは多くの工程を重ねて修復していきます」

工程として最初に取り掛かる、割れた器を漆で接着して高温多湿の場所に置いておくだけでも、夏場では1週間以上要するそうです。
その後、欠けた部分や溝が出来た部分を違うペーストを用いて埋め、固まったら研いで表面を滑らかにする作業へ。

黒漆を用いて何度も中塗りを重ね、表面がツルッとしたら、仕上げ。赤漆を塗り、金粉を塗して終わりとなりますが、シンプルな割れ方でも最低1ヶ月は要するそうです。
「洋食器も多く「この器にはこの色が合うのではないか」と思うこともあるので、金だけではなく、色漆で仕上げるご提案させていただくこともあります」

「関わる人が楽しく過ごせている。そう感じられたときが幸せ」
「教室にいらっしゃる方は、ものを増やしたくないという環境意識の高い方、子どもに壊れても直せるということを教えたい方など様々ですが、お直ししたものをご覧になったときに、「こんなに直ると思わなかった」と喜んでくださることが、とても嬉しいです」

器を直すことも、人と向き合うことも、その先にあるのは誰かの日常です。一人ひとりにとっての「大切なもの」に寄り添う時間は、今日もアトリエで続いています。
「自分だけではなく、自分に関わる人たちが楽しく過ごせていることが幸せです。家族と他愛もない話をしている時間もそうですし、教室で皆さんが笑顔で帰ってくださる時間も、その一つですね」



