絵本作家・まつむらまいこさんの暮らし
「世の中が暗くても、子どもたちに絵本の中は安心だと思ってもらいたくて」|仕事はリビングの一角で。絵本作家・まつむらまいこさんが、優しい世界を描き始める、朝10時

ーー「世の中が暗くても、子どもたちに絵本の中は安心だと思ってもらいたくて」|仕事はリビングの一角で。絵本作家・まつむらまいこさんが、優しい世界を描き始める、朝10時
直筆の淡い水彩、静けさの中にも温もりのある物語で心に寄り添う作品を生み出している、絵本作家のまつむらまいこさん。中学生で絵本作家になることを決め、美術大学4年生の時に応募した「イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」で入選、絵本作家への第一歩を踏み出しました。
「子どものときに「とにかく美しいものを見た」。そんな思い出を大人になっても覚えておいてもらえる絵本を作りたいんです」
現在はパートナーでフォトグラファーの松村隆史さんと子ども2人の4人で暮らす自宅リビングの一角が、仕事場となっています。暮らしと仕事が心地よく交差するこの場所で、まつむらさんが絵本に心惹かれた原点から、生み出す作品に込める思い、そして今感じている幸せについて、お聞きしました。

「絵を描くと褒めてくれる。それが嬉しくて」。初めてかいた絵本は、クセ毛の村のお話
「子どもの頃から本はずっと好きでしたし、絵を描くことも得意だという意識がありました。絵を描くと周りの人たちが褒めてくれるのが嬉しくて。好きなことを組み合わせると絵本作家になれたらいいなと、何となく思っていました」
そして中学生の頃には、はっきりとした目標に変わっていました。

「大阪のギャラリーで開催されていた絵本の公募展に出してみたり、高校の美術の授業で課題として出された絵本作りに本気で取り組んだり。振り返ると、コツコツとやるべきことに向かって積み重ねていたんだなと」
課題で作った絵本のお話の舞台となったのは、みんながもじゃもじゃ頭のクセ毛の村。
「村人たちがお互いに髪の毛自慢をし合って喧嘩になり、最終的に髪の毛が絡まって大変なことになる…という内容でした。今の絵柄とは随分異なりますが、当時好きだったものに影響を受けながら、一生懸命つくっていたと思います。それは今でも、実家で保管されています」

「他者が生み出した”何か”でデザインするより、自身がかいた絵本を世に出したい気持ちが強くなった」
その後、芸術の道に進むことを心配していた両親を、「将来役立つデザイン学部なら…」と美術大学への進学を許してもらえた、まつむらさん。ただ、進学後は絵本作家になりたいという気持ちが一層強まったそうです。
「いろんなジャンルのデザインを学ぶ中で、他の方の絵や写真を使ってデザインするより、自分自身でかいたものを本にしたいという気持ちが強くなって。『やっぱり、絵本作家になりたいんだな』と思いました」

さまざまな経験を経て、子どもの頃の夢を叶えた、まつむらさん。ただ、絵本作家は仕事であり、ライフワークでもある。そんな感覚があるそうです。
まつむらさんの手から生まれる美しい絵本には、子どもの頃から変わらない「絵本が好き」という気持ちが息づいています。

「教室の隅っこにいる子、声の小さい子。そういう子どもも読んで落ち着く絵本が作りたい」
「子どもの時に読んだ絵本について、物語の内容を細かく覚えていなくても、「あのシーンが綺麗だった」「あのページが大好きだった」ということはずっと覚えていて。とにかく、美しい絵本が好きだったんです」
中でも、まつむらさんの心の中にずっと残り続けているのが「うさぎのくれたバレエシューズ」(小峰書店、絵/安房直子 文/南塚直子 絵)です。
「桜の幹の中で工房で桃色のバレエシューズを作るシーンがすごく綺麗で。そのシーンに出会えたからこそ、今でも、ものを生み出すことを好きで居続けられるのかもしれません」

読者を優しく包むような世界観は、そういった作品に出会ってきたからこそ。また、まつむらさん自身の子どもたちに寄り添いたいという想いも表われています。
「私は大きな声でハキハキと話したり、リーダーとして引っ張っていったりすることが得意ではありません。だから、同じように声の小さい子や、教室の隅っこにいるような子が、読んでいて心が落ち着く、見守られている感じがする絵本を届けたいんです」

直筆で描かれる、淡く優しい世界。「間違いが間違いではなくなる、その面白さを手放したくなくて」
「キャンバスに筆で描くとなると、予期せぬことが起きたとしても、後戻りは出来ません。ただ、それ以上に思いがけない絵を生み出したり、新しいアイデアに繋がったりする面白さがあるんです。その面白さを手放したくなくて」
取材の日に描かれていたのは、今秋開催する個展に展示するうちの1枚。
「『きょうは もう ねます』(発行:月風灯舎、作・絵:まつむらまいこ)という私の絵本がメインの展示になるのですが、原画とあわせて、個展のために新しく描き下ろした絵もいくつか展示する予定です」

「リビングで描きはじめたのは、私の部屋がなくなっただけなんです」。家族の気配を感じられる、居心地のいい一角
現在の家に住みはじめたのは、10年前。とある、おばあちゃん姉妹が住んでいたそうですが、自宅までの道のりや家の階段が負担になるという理由で売りに出されたところを買い取ったそうです。
「水回りとキッチンはリノベーションしたものの、それ以外はそのまま使わせていただいています。天井も高く、タイル張りの床は床暖房が入っているので、冬でも快適です」

そして、まつむらさんの仕事場となっているリビングの一角には、作品が生み出される仕事机を囲むように、子どもたちから節目節目でもらったという手紙、そして人生で初めて購入したという、画家・やまぐちめぐみさんの絵が飾られています。
「手紙とかって、仕舞い込むと忘れてしまうじゃないですか。まだ子どもたちが小さい頃に書いてくれた「大好き」という言葉に支えられています。やまぐちめぐみさんの画は10年以上前に購入したものです。

「ギャラリーで見た瞬間から忘れられず、一度自宅に戻ったのですが、日を改めてもう一度伺ったのを覚えています。この絵が目に入ると頑張ろうと思えたり、心がホッとしたり。私も誰かにとって、そういう存在になるものを届けていきたいと思っています」

リビングで描くようになったのは、単に子どもの部屋が足りなくなったから。ただ、リビングにいると暮らしの地続きに仕事があること、また子どもたちとすぐに話せることもあって、これはこれで心地が良いと話します。
6年前から飼いはじめた白文鳥の「もんちゃん」も時折ケージから出し、自由に過ごさせているそうです。

「人と創作ができること、世界中の子どもたちが笑顔でいられること」が幸せ
「1つは、人と一緒に絵本がつくれるということです。1人で描く時間も楽しいですが、編集者さんと本を作ったり、それを受け取って喜んでくれる人がいたりすることに幸せを感じます」
「もう1つは、子どもが笑顔で幸せに過ごせること。自分がどんなに満たされて充実していても、すぐ横で子どもたちが悲しい顔をしていたら、喜びきれないと思うんです。自分の子どもはもちろん、世の中の子どもたちが元気に楽しく毎日を過ごせるように、環境を整えてあげることは、とても大事なことだと思っています」

子どもには綺麗なものをたくさん見て、安心できる時間を送ってほしい。世の中がどんなに暗い雰囲気になったとしても、「絵本の中にいれば安心だ」と思って欲しい。
子どもの頃からの夢を実現した今、絵本を通して多くの人と心を通わせ、幸せを分かち合うこと。それがまつむらさんにとっての幸せにつながっているようでした。


