金曜日のフェルマータ
いい人がつくる、満たされごはん
いい人がつくる、満たされごはん
01|eatreat.ruciのランチメニュー“大雪”

身体と心、丸ごと温まる料理をいただけたら。
そんな願いを叶えてくれるお店の調理場には、いつだって“いい人”が立っています。「いい人が作る、満たされごはん 」では、店主がお店や料理に込めた想いを伺い、訪れる人達との間にどのような繋がりを生んでいるのかを伺います。
第1回目は東急世田谷線・松陰神社前駅から歩いておよそ5分の場所にある、「eatreat.ruci」。店主・小林静香さんは、店先に“滋養と養生”を掲げ、一人ひとりに合った“アーユルヴェーダ料理”の提供を目指しています。民放キー局に新卒入社してから一転、料理の道へと進んだ小林さん。
アーユルヴェーダとの出会いは、自らがアレルギー体質であったことも影響しているそうです。自分、そしてお客さまと向き合う中で形となった、「eatreat.ruci」で味わえる“満たされごはん”の輪郭をたどります。

立ち止まったからこそ出会えた
アーユルヴェーダ
民放キー局へ新卒入社し、海外のバレエやオペラといった舞台公演を扱う部署へ。小林静香さんは、好きを仕事にするところから社会人生活をスタートさせました。
「海外の団体を招聘してジャパンツアーを運営する部署にいました。ただ、想像以上にハードで疲れちゃったんです。それで休職をしたものの、ぼーっと過ごすということが出来なくて。忙しなく動くことが身体に染み付いてしまったんでしょうね」
そして趣味の延長線上で友人と始めたのが、ケータリング。見て楽しい、食べても美味しい料理というコンセプトのもと提供したところ、思いのほか喜んでもらえたことが嬉しかったといいます。
「一方で、お客さまの口に入るものなので、ちゃんと勉強しなければとも思いました。飲食に転職するなら今が最後のチャンスだな、と6年間勤めたテレビ局を退職。30代を迎える前に、料理の道へ進むことに決めました」

その後、ビストロで修行し料理の基本をみっちり勉強したものの、前職以上の忙しさに改めて自分自身と向き合ったそうです。
「料理人の志は様々ですが、わたしはやっぱり人が元気になる料理を作りたくて。そこから薬膳や滋養、アーユルヴェーダに辿りつきました。ただ身体にいいというところではなく、個人を想って作るという考え方に惹かれたんです」
仕事にするため勉強するというよりは、生活にアーユルヴェーダの考え方を取り入れて以降、自分自身が良くなっていくことに感動して深みにはまっていったと言います。
「それまでは、アレルギー反応がかなり頻繁に出ていて。顔がずっと赤かったり、お酒を飲むのがつらかったりしたのですが、そういったことが少しずつ減っていったんです。その変化が、すごい面白いなって思えたんですよ」

回復するという実感を経て湧いた
「伝えたい」という気持ち
「自身がいい経験をすると、それを伝えたくなるっていうのは誰もが感じることだと思う」
アーユルヴェーダをより多くの人に伝えるため、池田早紀さんと三原寛子さんが開催しているアーユルヴェーダの教室「マハトチューニング・クッキングクラス」に1年間通った後、日本アーユルヴェーダ・スクールに6年間かよい、アーユルヴェーダの専門知識を身につけたそう。
「2018年、伝えるための第一歩はスパイスとハーブを独自にブレンドしたお茶を作ることから。それから約1年後、三軒茶屋でお茶とアーユルヴェーダ料理を提供する「eatreat.CHAYA」を間借りの形でオープン、今の場所に移転し「eatreat.ruci」を独立オープンしたのは2022年末になります。
誰でも当てはまる健康法やレシピを紹介するのではなく、皆さん一人ひとりに必要な食生活を知ってもらいたいんです。そうしたら、人生の波をもう少し上手く乗りこなせるかもしれないじゃないですか」
外から一見するとスパイスカレー屋さん。だけど、通いつづけるうちに身体と心の調子が良くなっていく。そんな場でありたいと話してくれました。

こだわりの素材。生産者がいい人だと
思えることも大切
メニューは暦に応じて変わります。12月に出されていたのは、“大雪”。野菜と穀物のみでつくられた「里芋とフェヌグリークシード」、肉と穀物でつくられた「サヴォイのロールキャベツ」の2種。それらに加え、スープ、チャパティ、ご飯、3種のお惣菜、食後のドリンクがついてきます。
「普段はチキンを使ったカレーを出すことが多いですが、今の時期は消化に少し重たいものを食べてもらったほうが身体の調子がよくなると思い、あえて消化に少し重く、ただ滋養する力もある豚肉を使った料理をお出ししています。来年に向けて土台をつくるイメージで」
また、材料を仕入れるときには、品質やコストだけではなく、生産者がいい人であるかを大切にしているそうです。
「お出しする料理には生産者の思いが込められたものを使いたい。そして、お店のスタッフが元気で、健康でいることがお客さまのためになると信じています」
この想いがあるからこそ、「eatreat.ruci」はコミュニティとしても役割を果たしています。定期的に行われている料理教室の生徒は、ほとんどがお客さま。世代も20代〜60代までと幅広く、同じ時期に通う方達は生涯の友達のような関係性を築いているといいます。

お客さん自ら、自分に合った生き方を見つけられる。そんなレシピの作り方をシェアできたら
小林さん自身も、この関係性が築かれているからこそ感じられた嬉しい出来事がありました。
「料理教室を始めた5年前は、私が治してあげなければという気持ちがありました。でも、アーユルヴェーダの考えを基本とするなら、そのときの心身の状態や季節に合わせて体内に入れるものを自分自身で考えられたほうがいいですよね」
今ではレシピを教えるのではなく、レシピの作り方・自身の知り方を教える場となっています。そして、その考えは生徒にも伝わっていました。
「パニック障害で車に乗れなかった生徒さんに「治してもらったというよりは、自分で道を見つけられた感覚がある」と言われたときは、本当に嬉しかったですね。
以前よりも自然で、無理している雰囲気がないというか。私がいなくても自分の足で立ち上がれる。そんな未来を見せてくれて感謝しています」
それは小林さんが思う“いい人”にも、通ずるところがありました。
「私が思ういい人は、自分自身を守れる人。そうなるためには主体性というものが必ずついて回りますし、寄りかかり過ぎず、寄りかかられ過ぎず、自らの足でしっかり立つことを意識するのが大切だと思います」

まずは、信じられるものを見つけること
最後に、小林さんにとっての幸せを伺いました。
「私は自分の使命とは何か、ということをよく考える機会が多い人生を送ってきました。今、アーユルヴェーダという信じられるものが見つかって、それが周りの人にとっても、いいことであると思えることが、幸せなことです。もちろん、万人にとってアーユルヴェーダが合うと言ってもらえるわけではありません。
でも、結局、自分が信じられるものを続けていくことが幸せにも繋がると思うんです。信じられるものを通じて他者と調和できること。それが伝播して、また新たな調和が生まれること。それが私にとっての幸せです。
最後に…“予約でいっぱいで入れないイメージがある”とありがたいお言葉をいただくこともありますが、すぐにご案内できることも多いので、ぜひいらしてくださいね」


