しあわせのカタチ

こんな本屋に、行きたかった

こんな本屋に、行きたかった
01|SNOW SHOVELING
「人って、自分や好きなことについて話している瞬間に、等しく輝きを放つ」

連載企画「こんな本屋に、行きたかった」では、各地の独立系書店を訪ね、そのコンセプトや店として存在する意義、そして店主にとっての「幸せ」とは何かを伺います。

第1回は、東急田園都市線・駒沢大学駅から駒沢公園通りを歩いて約20分の場所にある「SNOW SHOVELING(スノウショベリング)」。店内には店主・中村秀一さんが「欲しい」と思った本だけが、新刊・古本を問わず約8,000冊並びます。

「人は好きなものの話をするとき、等しく輝く。結局、自分のことを話せる場所を求めているんじゃないかなって」。

冒頭、その言葉から始まったインタビューは「SNOW SHOVELING」が本だけを買える場所ではなく、人と人が出会い、“小さな奇跡”が生まれる場であることを、静かに浮かび上がらせていきました。

自己発信がしたかったと気づき
2012年にオープンした「SNOW SHOVELING」

フリーランスとしてデザインや企画の仕事をしていた中村さんが、このお店をオープンしたのは2012年。それまでの仕事は楽しかったものの、どこかに拭えない物足りなさがあったといいます。

「考えると、自己発信をしたかったんだなって」

その気づきから、自然と思い浮かんだのが本屋でした。本が好きというよりも、本屋という「場所」や「空気」に惹かれていたのだそう。実験のような気持ちで始めた店は、いつしか日常となりました。

中村さんがこの店で大切にしているのは、人と本、そして人と人が出会える場所であり続けること。

「単純に、人と話すのが好きなんです」

好きな本のこと、映画のこと、音楽のこと。

「人は自分の好きなものについて話すとき、等しく輝きを放ちます。そう考えると、本当は誰もが自分の話をしたいんじゃないかって思うんです。けれど、それを安心して差し出せる場所は、意外と少ない。だからこそ、本屋というかたちを選びました」

対話そのものを商品として売ることは出来ないけれど、店名(SNOW SHOVELING=“文化的雪かき”は、村上春樹作品に登場する一説)に掲げることで「ここでは言葉を交わしていいんだよ」という、ひとつの立てつけをつくりたかったのだといいます。

「本を買いに来る人、ただ眺めに来る人。関わり方はそれぞれですが、店に入ったときと店を出るときで、心の何かが少しだけ変わっていたらいい。大げさかもしれないですけど、“小さな奇跡”が起きたらいいなって思ってます」

本を売るだけの場所として留まらず
自ら出会いを創り出す

毎週のように行われている読書会も、そんな“小さな奇跡”が生まれる場のひとつ。人は誰しも、新しい出会いや、自分の話ができる時間を求めている。だからこそ、場所を持ち、何かを始めることで、自然と繋がりが生まれていくと中村さんは感じています。

また「旅する本屋」として、全国を巡る活動も続いています。大阪や京都をはじめ、年にするとおよそ2カ月ほどは店を離れ、各地へ。北は北海道、南は鹿児島まで足を運んできました。

「やっていることは、すごくシンプルなんです。自分が会いたい人に会いに行って、行きたい場所に行く。それだけで」

旅先で交わされる何気ない会話や、その場で生まれる交流が、思いがけず次に繋がっていくこともあります。一緒に何かを始めるパートナーが見つかることもあり、その偶然性こそが、この旅のいちばんの楽しさだといいます。

「現地で会った人とご飯に行ったり、話を聞いたり、銭湯に行ったり。そういうことの積み重ねが、だんだん日常になっていくんですよ。オープンでいれば、人と話せるし、仲良くなることもできる。そうすると、何かが起こる」

旅を続けながら、中村さん自身もまた、そのことを確かめ続けているようでした。

売り場の一角に設けられている「Blind Date with a Book」。包装紙に包まれた本には、店主・中村さんがそれぞれの作品を一言で表したコピーが添えられている。「先入観よりも直感で本と出会う楽しみを味わって欲しい」という想いが込められている。迷って選べない人は、中村さんにヒントをもらうもよし。

中村さんにとっての
「いい本」「いい人」

「僕が思ういい本は…自宅に置いておきたい本。あとは何度も読み返したくなるもの」

ふとしたときに目が合い、何かを思い出したり、考えごとが始まったりする。読むだけでなく、そこに「ある」ことで日常に作用する存在だと言います。

「そう思えるなら、ジャケ買いでも全然いい」

理屈よりも、感覚を信じる。そのスタンスは、店のラインナップにもそのまま表れています。同時に中村さんの思う良い人についても伺いました。

「難しいですね。でも、僕がいいなと思う人たちを振り返ってみると、素直で、正直な人かな。いつも、そういられなくても、できるだけ自然体で、人間らしくいようとする姿勢がある人はいい人だと思う」

『フラニーとゾーイー』 J.D.サリンジャー著 野崎孝訳(新潮文庫)

中村さんが人生で一番読んでいる本
『フラニーとゾーイー』

「もう、両手両足じゃ足りないくらい。20回以上は読んでますね。これからもきっと、ずっと読み続けると思います」

読み返すたびに、次はもっと面白くなるだろうという確信がある。中村さんにとってこの本は、思い出すだけで、気持ちの温度が少し上がるといいます。

「物語はとてもシンプル。兄妹であるフラニーとゾーイーが、それぞれの失敗や戸惑いを抱え、言葉を交わす。ただそれだけの話です。けれど、そのやりとりの中に、人間とは何か、自意識やエゴとは何か、人生とは何かが、ぎゅっと詰まっている。兄弟喧嘩を見せられているだけ、とも言えるんですけど」

それでもページをめくるたびに、自分の内側で思考が始まり、読み手自身が少しずつ整っていく感覚がある。何度読んでも、引っかかる場所は違い、そのたびに新しい問いが生まれるそうです。

『フラニーとゾーイー』は、その“考える時間”を自然と引き出してくれる一冊。だからこそ、これから先も、何度でも手に取ってしまうのだと、中村さんは話してくれました。

中村さんにとっての幸せ

「朝起きて、今日も生きている。それだけで幸せですね」

中村さんの答えは、とてもシンプルでした。特別な出来事がある日も、何も起こらない日も、「今日という一日を生きている」こと自体が、すでに十分だといいます。

飾らないその言葉は、これまでの店づくりや、人との向き合い方とも、静かに繋がっていました。

中村秀一

中村秀一

フリーランスのデザイナー・プランナーの仕事を経て、2012年に独立系書店「SNOW SHOVELING 」をオープン。店内には新刊・古本あわせて約8,000冊が蔵書されており、中村さん自身が「自宅に置きたい」と思えるものだけがセレクトされている。ワゴン車に本を積んで全国各地を巡る「旅する本屋」や毎週開催している読書会などを通して、人と人の間に生まれる“小さな奇跡”を大切にしている。朝は週6回、30分のヨガをルーティンとして取り入れている。

SNOW SHOVELING(スノウショベリング)

SNOW SHOVELING(スノウショベリング)

住所:〒158-0081 東京都世田谷区深沢4丁目35-7 深沢ビル 2F-C
営業時間:13:00ころ~18:00くらい(定休日:水曜日)
電話番号:03-6432-3468

Instagram: snow_shoveling

写真/船場拓真
記事制作/株式会社ZEN PLACE

※イベントや営業時間などの最新情報は公式インスタグラムをご確認ください
※本記事は2025年12月に行った取材をもとに制作されたものです

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