映画ライター・よしひろまさみちの週刊映画コラム「後は、ご自由に」
#01『ジュリー&ジュリア』|映画ライター・よしひろまさみちの週刊映画コラム「後は、ご自由に」

映画ライターで日本アカデミー賞会員のよしひろまさみちさんが、毎月のテーマに合わせて作品を紹介する週刊映画コラム「後は、ご自由に」。
3月のテーマは、“自分だけのものさしを、手に入れられる映画”。新生活が控えた3月は、どうしても周りと比較してしまいがちですが…マインドフルな状態でいられれば、以前とは違った感覚で人や物事に触れられるはず。
第1週目は時代を超えて、料理と探究心で繋がった2人の女性の実話を基にした『ジュリー&ジュリア』をご紹介。
退屈な人生を抜け出すには、ひとつのことを
愚直に続けることが、むしろ近道なのかも
継続は力なり、と言葉では理解しているものの、なにか一つのことを極める、もしくは形にするまで続けるのは難しいことですよね。そんな人の背中をちょっとだけ押してくれるかもしれない映画が『ジュリー&ジュリア』。
50年代と2000年代、違う時代を生きる2人の女性が、「誰もやってないこと」と「料理」に打ち込んでいく姿を描いた、実話ベースの作品です。小難しいことは抜きにして、単純にお料理が好きだったり、食べることが好きという方なら、つかみはOK。香りこそしないものの、出てくるフレンチの数々がなんせおいしそうに映りますから。
後にアメリカでフランス家庭料理のレシピを広めたジュリア・チャイルドが、夫の仕事の都合でパリに住んだことから、フランス料理に興味を持ち、当時はプロのシェフを目指す男ばかりの名門コルドン・ブルーで苦心して腕を磨く50年代パート。
そしてそのレシピを1年間毎日作り、それをブログで発信しようとするジュリーの00年代パート。この2つの時代を交錯させながら、ひとつのことを続けようとする意志のゆらぎ、女性が前人未到のジャンルに挑む困難を描き出します。
まずジュリア。アメリカでは知らぬ人はいないというほどの有名料理研究家の彼女ですが、そのきっかけになったのはフレンチのレシピを書籍にしただけでなく、TV番組で家庭料理として広めたから(彼女のキッチンはアメリカの歴史博物館で展示されているほどで、最近では『ローズ家〜崖っぷちの夫婦〜』という作品にも登場しました)。
外交官の夫の都合でパリに移住した彼女は、もともと食への興味が強かったことから、フランス料理の魅力にとりつかれます。
ただ、当時は英語で書かれたフランス料理のレシピ本はないばかりか、フランス料理を学ぶのはプロ志望の男性ばかり。彼女の強さは、そんな状況下でも自分の探究心を止めずに、コルドン・ブルーで学んだこと。50年代、働く女性がまだマイノリティだった時代に、保守的な男ばかりの業界で手に職をつけて、さらにはその技術を世間に広めたフロンティアです。
対するジュリーはハリのある生活にするために、一つの目標「365日、ジュリアのレシピを作りブログ発信する」を立てます。ときはアメリカ同時多発テロの後。女性が働くのは当たり前になりましたが、自己表現の選択肢が無数に広がり、アイデンティティの探求をする人が急増した時代です。
選択肢が多すぎるだけに、ワンテーマでブログを継続するのも強い意志がない限り続けられないでしょう。
表現の仕方や置かれた環境は違えど、意志と探究心の強さが2人の共通点として見えてくるはずです。時代が変わっても、何かを成す、もしくは形にするためには、愚直でもいいから続けること。
この重要性に気づけると、彼女らのように生活がきらめき始めるかもしれません。


