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呼吸はルールではなく、ツールである〜ポールスターピラティス創始者が説く「正しい呼吸」とは

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「呼吸」をテーマに昨年11月に行われた『Pilates World 2016』。基調講演を務めたのは、ポールスターピラティスの創始者の一人であり、現代表のブレント・アンダーソンさんだ。理学療法士として25年以上のキャリアがあり、ピラティスを活用した舞台芸術医学の第一人者としても知られる。
アンダーソンさんが今回、「呼吸と姿勢」と題した自身のセッションで発した最大のメッセージは、「呼吸はルールではなく、ツールである」というものだった。呼吸が「ルールではない」とはどういう意味で、何をするための「ツールである」のか。また、そう言えるのはなぜか。セッションの内容をレポートする。

正しい呼吸は、人が幸せに生きるためのツールになる

ピラティスのエクササイズにおいては、しばしば「呼吸とはこうでなければならない」ということが語られがちだ。だが、「呼吸をこのようにルールとして捉えるのは好ましくない」とアンダーソンさん。ピラティスを習いにくる人の中には「呼吸が苦手」だと自称する人もいるが、これもおかしな話だと一笑に付す。
なぜなら、本当に「呼吸が苦手」ならば、その人は生きていることができないはずだからだ。「正しい呼吸」はルールによって定めるものではなく、動作によって自然と導かれるものであるとアンダーソンさんは主張する。
一方で、「正しい呼吸」は究極的には人が幸せに生きるためのツールになると説明する。正しく呼吸することは、「人にエネルギーを与え、マインドを変え、感情を司り、集中力や注意力を高める」ものだという。
このことは例えば、著名な心理学者マズローが「欲求5段階説」で主張したこととも一致する。マズローによれば、人間の欲求は5段階のピラミッド構造になっているが、そこでもっとも高次に位置するのが「自己実現欲求」であり、逆に一番底に位置する基礎的な欲求とされるのが「生理的欲求」である。
食べ物や水分は仮に数日抜いても生き続けられるのに対して、空気を吸わないでいられるのはせいぜいが数分だ。そう考えると、「人が自分らしくあるための最も基礎にあるのが、空気≒呼吸ということになる」とアンダーソンさんは言う。
セッションではこうしたことの確からしさを、ピラティスの創始者であるジョセフ・ピラティスの言葉や、解剖学・生体力学的な知識、最新の研究などをあたることを通じて紐解いていった。

呼吸にまつわるジョセフの発言は科学的に正しい?正しくない?


ジョセフ・ピラティスは呼吸に関して様々な発言を残している。しかし、ジョセフの死後数十年が経ち、研究が進んだ今では、その全てが正しいわけではないことが分かっているという。「正しい呼吸」とは何かを探る作業として、セッションはまず、ジョセフの呼吸に関する発言の何が正しくて、何が間違っているのかを検証することから始まった。
アンダーソンさんによれば、ジョセフは「体内に残った不純物が疲労を作り出す」のであり、呼吸を「完全に息を吐くことで、体内の不純物を出し切り、逆に吸うことで全身を新しい酸素で満たす」ための機能であると考えていた。
ここで重要なのは、少なくない人がピラティスを「コアを鍛えるためのエクササイズ」だと誤解しているが、ジョセフ本人がそんな発言をしたことはなく、「肺をきれいにするためのエクササイズ」と位置付けていたということだ。
今日、病院で亡くなる人の死因で最も多いのが呼吸不全であることを考えると、この考えは概ね正しいとアンダーソンさんは言う(実際には「完全に」吐き切るということはできないことが分かっている)。
また、ジョセフは「たっぷりと陽の光を浴びて、新鮮な空気を吸うことが大切」であり、そのための呼吸は鼻や口からだけでなく、皮膚や目からも行われていると考えていた。
現在では「ガス交換は肺においてのみ行われる」というのが通説なので、その意味においては「皮膚や目でも呼吸をしている」というのは正しくない。しかし一方で、皮膚が陽の光を受けることでビタミンDが生産され、それによって骨の健康が得られるということが分かっている。その点で言えば、ジョセフのこの発言も正しさを含んでいるとアンダーソンさんは言う。
ジョセフが生前、こうしたことの全てを理論的に説明できたとは考えづらい。だが、現代の研究に照らしてもかなり確からしいことを、直感的に言い当て、体系化していたということができるだろう。

今している活動が要求する呼吸量にマッチしているか

では、呼吸が「正しい」とはどういうことか。それは「今している活動が要求する呼吸量にマッチしていること」だとアンダーソンさんは言う。そして本来、人間の身体は自然とそうした「正しい呼吸」をするようにできている。だから、エクササイズ中に「いつ吸って、いつ吐くのか」に注目することは、実はそれほど重要ではないのだという。
このことは、解剖学や生体力学に照らすことで裏付けられる。
アンダーソンさんによれば、血中の酸素と二酸化炭素の量が変動すると、それが神経を通って指令として伝わり、横隔膜が動く。横隔膜が動くと腹腔内圧が変わるから、自然と空気が出入りして、酸素と二酸化炭素の量が整えられる。シンプルに言えば、これが呼吸のメカニズムだ。
一方で、身体を物理的に支えるのには、腹腔内圧が一定に保たれている必要がある。呼吸によって空気が出入りすれば内圧は変わり、複雑な活動をすれば出入りはより激しくなるが、腹腔を囲む横隔膜、骨盤底筋、その他の筋肉には、腹腔内圧を一定に保つための自動調整機能があるのだという。
つまり、その働きに従っていさえすれば「正しい呼吸」になるということだ。
しかし、身体のアライメントが整っていないとそれがうまく機能しなくなる。例えば肋骨のアライメントが整っていないと、その動きが制限され、肋骨に付着している横隔膜も正しく機能しなくなる。それでも腹腔内圧を一定に保とうとすれば、無理をして他の筋肉で呼吸を促進するしかない。こうした「非効率」が、巡り巡って身体の様々な場所の痛みにつながっていく。
「呼吸が動きを邪魔せず、ちゃんと促進しているのかどうかに気付ける感覚を持つことが重要」とアンダーソンさんは言う。ピラティスを通じて複雑な動きをすれば、それだけ呼吸が必要なシチュエーションに置かれることになる。それを重ねることが、必要な身体感覚を育てるのだという。
逆に言えば、インストラクターが常に「ルール」を指示してばかりでは、そうした感覚は育たない。「だからインストラクターは、クライアントの身体にいま何が起きているのかを見ることに時間を使うべきだ。その上で、クライアントと一緒に正しいアライメントを探っていくことだ」とアンダーソンさんは説く。

エクササイズを信頼しよう!

ピラティストレーナーばかり250人を対象にした最新の研究結果によれば、「骨盤底筋を引き上げてみてください」と言われて実際に引き上げることができた人の割合は、50%に満たなかったという。一方で、同じ人たちに「深く吸って、深く吐いて」と指示したところ、息を吐いた時にはほとんどの人の骨盤底筋がしっかりと上がっていた。
このことから分かるのは、一生懸命コアを鍛えても、それが骨盤底筋の機能不全の改善にはつながらないということだ。しかしだからと言って、ピラティスのエクササイズに意味がないという結論には至らない。
むしろその逆で、ジョセフが提唱したピラティス本来の意味に従ってエクササイズを行っていけば、「鍛えよう」と意識せずとも自然とアライメントは整い、呼吸は深まり、そのことが全身性の健康につながっていくということだ。
科学的な理解を深めれば深めるほど、直感的にこのエクササイズを作った天才たるジョセフの偉大さに気が付くことになるとアンダーソンさんは言う。
「ジョセフが言っていたことは実にシンプルです。エクササイズをして、栄養をとって、清潔にして、よい睡眠習慣をとって、新鮮な空気と陽の光を浴びて、仕事と遊びと休息のバランスをとる。これが必要なことの全てです。そうすれば人は幸せになれる。それが、ジョセフからのメッセージなんです」  

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監修者について

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