秋川渓谷にある古民家カフェ「POUND」岩田衣織さんの1日
「“今日も疲れたね”。そう言い合って1日が終えられるって、幸せじゃないですか」|具たっぷりのツナポテトサンド、飼い猫・赤ずきんモチーフのラテアート。山あいのカフェ「POUND」店主・岩田衣織さんの朝

ーー「“今日も疲れたね”。そう言い合って1日が終えられるって、幸せじゃないですか」|具たっぷりのツナポテトサンド、飼い猫・赤ずきんモチーフのラテアート。山あいのカフェ「POUND」店主・岩田衣織さんの朝
東京・あきる野市。秋川渓谷行きのバスに揺られ、戸倉で下車してすぐの場所にあるのが古民家カフェ「POUND」。築80年近い一軒家を8年かけてDIYし、2018年にオープンしました。
店主の岩田衣織さんは前職で編集プロダクションに勤務し、全国各地を取材で巡っていたそうです。パートナーの玲子さんとは仕事を通して知り合い、結婚。
「いつかカフェをやりたい」という2人の思いが形となったこの場所は、単にくつろぐ場所というだけでなく、人と人がつながる場所として地域にとって大切な場所になっています。

「いつか、自然豊かな場所でカフェをやりたいね」。夫婦で描いた8年越しの夢
衣織さんは以前、編集プロダクションに勤めていました。そこで知り合ったのが、フリーライターで中国語が堪能な玲子さん。結婚後は衣織さんも旅を軸に据えたフリーライターへ転身し、二人で中国へ移住。
その5年の間にカフェをやりたいという気持ちが芽生えたそうです。そして、子どもが生まれることを機に帰国、抱いていた夢に向かって歩み始めました。

「帰国後に、カフェを営むことがだんだんと具体的になり、長野や山梨、神奈川などを訪ねました。子どもの通学や都心へのアクセス、自然と距離が近く暮らしやすさを考えた結果、あきる野市にあった、この一軒家に決めました」
内装はライターの仕事と並行してDIYをしたそうで、8割は衣織さん自身の手でゆっくりと着実に、素人では難しい箇所は地元の大工さんにお願いしたと言います。
急いで完成させるのではなく、そのとき自分にできることを積み重ねていく。そうして8年かけて、暮らしと仕事の場所が少しずつ形になっていきました。店内には、旅先で出会った品や地域の作家の作品も自然に並んでいます。

「きちんとした店でありたい」から、少しずつ肩の力を抜くまで
お店を始めた当初は、「きちんとした店でありたい」という思いが人一倍強かったといいます。
「ラストオーダーの時間になったらきっちり閉める。お客さんがいなくても営業する。そうしないと、店としての信頼がなくなるんじゃないかと、すごく気にしていました」
けれど8年続けるうちに、少しずつ考え方も変わっていきました。
「ラストオーダーを過ぎて訪ねてくれたお客さんに対しては、余裕があればご案内するなど、ルールはあれど目の前の人、自分たちの気持ちを優先してみる。そんな風に出来るようになって、心やこの場所自体に余白が生まれたような気がしています」

「ラテアートは、知人の紹介してもらったレストランで練習して」。こだわりのラテは、玲子さんがつくるミールやお菓子とともに
「POUND」は、コーヒーを美味しくいただくお店。カフェメニューには佐賀県に住む友人のロースタリーから仕入れた豆を使用しています。中でも、可愛らしいラテアートがあしらわれたラテメニューは、訪れる人の顔をほころばせる看板メニューになっています。
「開業する前は、基本となるハートも描けなかったんですけど、友人の紹介で山あいにあるイタリアンレストランのマシンをお借りできることになって。独学で地道に学んでいきました。今では迎え入れた元保護猫の飼い猫だったり、季節ごとに装いを変える赤ずきんモチーフのお女の子だったり、楽しみながら描けています」

それと合わせて注文したのは、ツナポテトと野菜のサンド。ベーコンやパプリカ、キュウリ、スプラウトのほか、畑で採れたシソが加わった、分厚く、目にも楽しいサンドイッチです。
「妻と色々試しながら、サンドする具材を話していたときに、シソを入れたら相性がとっても良くて。そのほか、ガパオライスに使用するバジル、ミントソーダに使うミントも畑で採れたものです」

地域との心地よい距離感、お店で生まれるつながり。「誰とどういう時間を過ごせたのか、それが日々を送るうえで大切な気がする」
あきる野市へ移住しカフェを営む生活を始めると、プライベートにも変化があったそうです。
「以前まで送っていた都心での暮らしは、取材はあれどデスクワーク中心のお仕事だったので、地域との関わりを持つなんてことは多くはありませんでした。ただ、ここで暮らし始めてからは、地域に受け入れられている感じがしていて。消防団やお祭りの実行委員会に入ったりしていると、仕事上のお付き合いで出来た友達とは少し違って、甘えられる関係が生まれるんですよ」

そうして、地域とともにある「 POUND」は、訪れた人が新しいつながりを生む場所にもなっています。
「この場所を訪れた方同士で「今度何か一緒にやりませんか」など、新しいものが生まれるきっかけになれていることが嬉しいですし、一度来てくれた方が、お母さんを連れて再び足を運んでくれたということもありました。そんな瞬間に遭遇できると、嬉しくなります」

最後に、衣織さん自身が思う幸せについてお聞きしました。
「19歳になる子どもがいるのですが、年頃なので昔のようにたくさん話してくれたり、出かけたりすることはほとんど無くなりましたが、それでも、外食したときに話を聞けることがあると、じわじわとしあわせを感じますね」
「後は、悩まされることが極力少なくて、やりたい仕事をやれて、「今日も疲れたね」と言い合えて。そんな風に1日を終えられる日々が、しあわせなんじゃないかなと思ってます。どこに行ったとか、何を食べたとかよりも、誰とどういうリラックスした時間を過ごせたのか、それが大事な気がしています」



