こんな本屋に、行きたかった
こんな本屋に、行きたかった
06|こころの本屋「気にかけあう人たちと出会う、繋がる場所であれたら」

ーー「ご近所で気にかけ合う、ゆるやかな繋がりが生まれたら」|築40年・木造アパートの一室で週末だけ開かれる「こころの本屋」店主・石川理恵さんの1日【こんな本屋に、行きたかった vol.6】
連載企画「こんな本屋に、行きたかった」。第6回は西武池袋線・東長崎駅から徒歩4分、アパートの一室で週末のみ営まれている「こころの本屋」です。店内には「心」にまつわる本が並び、日記を書く会や編み物の集まりなど、本をきっかけに人がゆるやかにつながる場も開かれています。
店主の石川理恵さんは、25年に渡って編集・ライターとして活動し、NPO法人で不登校支援にも携わりました。
「”困ったら相談して下さいね”。そう言われても、人に相談したり、自分のことを話したりするのって、ハードルが高いですよね。それよりは、本を読む、何かを書く、編み物を編む。そんな”ツール”があるとポロっと話せたりする気がしていて」
前々から誰かの居場所になるようなお店を開きたかったという石川さんのお話は、誰かとゆるやかにつながる場の必要性を静かに問いかけるものでした。

「地元の本屋さんだからこそ、間口を広く」。こころの本屋をオープンするまで
2023年10月にオープンした「こころの本屋」。店主の石川理恵さんは、もともと本屋を開くつもりはなかったものの、「何らかのお店をやりたい」という思いを10年以上抱いていたといいます。
地元・東長崎のアパート「弐番館」と巡り合い、直感的に「ここでお店をするなら、本屋がいい」と、本屋さんになることを決めたそうです。
「選書の軸は 『心』にまつわること。40代のときに大学の通信制講義で学んだ心理学が面白かったんです。大人になってからの学びは、それまで自身が経験した出来事と理論が結びつくから、自己理解が深まるんですよ」

オープン間近までは心理学や社会学のの本を中心に置くことを考えていたそうですが、真裏にある洋食屋店主から「なんだか難しそうだな」と言われたことを機に、もう少し間口を広げ、石川さん自身が“こころの本”だと感じた500冊が並びます。
「せっかく地元で開くのに、近所の人が入りづらい本屋では意味がない。そこは柔軟に考えました」

編み物を編んだり、日記を書いたり。心がつながる、クラブ活動
「こころの本屋」は、なんとなく気にかけあう人たちが増えていく場所としても、形作られつつあります。その一端を担っているのが「自分史&暮らしをZINEに綴るクラブ」や編み物の先生を招いて行われる「カギ針でベストを編む会」など、緩やかに人とつながる時間です。
「人と話すのがちょっぴり苦手な人も、話好きな人も、わざわざ話すほどではないと思っていた気持ちがポロッと出るような場にしたい。でも、場を用意されても何も無しに話すのって難しいですよね。本を読む、何かを書く、時には編み物を編む。それらを会話を交わす理由にしてもらえれば嬉しいです」

書くことの中でも石川さん自身が長年続けているのが、日記です。中学生の頃からつけているという日記は、読み返すと自分もすっかり忘れていた出来事や気持ちに再会できるところが面白いのだそうです。書くのも読むのも両方、大切な時間だと話します。
「日記は書きたいときに思ったことをそのまま書けばいい。自分に優しくゆるゆると続けています。子育てと仕事に追われていた時は5年ほど空いていますし、どんな感情でも紙の上に綴るのは悪いことではないと思うんです」

「3回会いに来てくれる人がいると、何かいいことが起きると信じてる」
人とゆるやかに繋がることを大切にする石川さん。回数をまたいでイベントを催し、定期的に顔を合わせられる機会をつくっています。それには、不登校支援を行うNPO法人で保護者面談を担当していた経験が影響しているそうです。
「初回はお互いのことをほとんど分からずに終わってしまう事が多いんです。ただ、大体3回繰り返すと話が弾む実感がありました。それもあって、回数を重ねて参加してもらうクラブ活動やイベントを催すことが多いです」
「私はとにかく人が1回でも来てくれることがありがたいことだと思っていて。さらに2回も来てくれるってすごいことですよね。だから本屋を開いていて一番嬉しいのは、一度来た人がもう1回顔を見せてくれること。繰り返し足を運んでくれるだけで、その人からたくさんものものを受け取っています」

子ども2人が思春期の時に出会った本「去られるためにそこにいる」
「著者は医師で臨床心理士の田中茂樹さん。子ども2人が思春期の時に出会った本。内容としては、子どもを見守る意味をハウツーで紹介するというよりは、親と子の間で実際に起きたトラブルに目を向けて、親の役割や子どものためにできることを優しく綴られています」
「私自身、子離れをしていく段階でもあったので、タイトルを見ただけで泣いてしまいました。子どもは去るのに、自分はその場に居続けなくてはいけない。そんなことを突きつけられているようで」
「中では、ある母親が巣立ちの時を迎えた娘に話をしていたら「長い」と言われてしまったエピソードが出てきます。それに対して母親が思ってもないことを言い返してしまうという一場面があるんです。もう、その時のお母さんの気持ちが痛いほど分かるといいますか。何より、先生が優しく解説してくれることが沁みるんです」

石川さんにとっての幸せ「おでんの具を選んでいるとき」
「本当に日常的なことなのですが、おでんの具を選んでいるときに「もしかして、私ってすごい幸せかもしれない」と感じます。家族全員のことを考えて、好きな具をカゴに入れていく。
長男は白滝とこんにゃくが好きで、両方入れると「神!」と言ってくれるので、たまには両方入れてみたり。次男は卵が好き、夫の父はつみれが好きで、夫の姉は鶏肉が好きで…私が好きなちくわぶは絶対2本入れるとか。想える人がいることって幸せだなと思います」


