映画ライター・よしひろまさみちの週刊映画コラム「後は、ご自由に」
#02 『LIFE!/ライフ』|映画ライター・よしひろまさみちの週刊映画コラム「後は、ご自由に」

映画ライターで日本アカデミー賞会員のよしひろまさみちさんが、毎月のテーマに合わせて作品を紹介する週刊映画コラム「後は、ご自由に」。
3月のテーマは、“自分だけのものさしを、手に入れられる映画”。新生活が控えた3月は、どうしても周りと比較してしまいがちですが…マインドフルな状態でいられれば、以前とは違った感覚で人や物事に触れられるはず。
第2週目はグラフ誌『LIFE』に勤めるだけの毎日を送るウォルターが、やむなく出た旅先で多くの経験を積み、成長する姿を描いた『LIFE!/ライフ』をご紹介。
その瞬間にしか見られないもの、触れられないものを大切にして
起きてしまったことは仕方がないし、もう同じことは起きない。時間の不可逆性とともに、今をエンジョイすることで掴み得るものがどれほど大きいかを描いた映画。それが『LIFE!/ライフ』です。
みなさん、『LIFE』というグラフ誌を覚えてますか? 世界で起きているありとあらゆる事象の最前線で収めた写真をドーンっと取り上げる雑誌で、フォトジャーナリズム史上、一番偉大な媒体とされています。この映画の主人公ウォルターは、『LIFE』誌の写真管理をしている設定です。
現実に『LIFE』が紙媒体発行をやめて6年後、2013年に作られた本作は、いかにあの媒体が偉大だったか、時代を切り取った報道の最前線に携わる人達がどのような思いで取り組んでいたかをフックにしながら、シャイで人生のたのしみ方を知らなかったウォルター、すなわち特別な誰かではない人物の冒険と成長物語として描いています。
ウォルターは無味乾燥な生活を送り、旅や冒険には無関心。ただ、彼には変なクセがあり、興味を持った瞬間に妄想の世界に旅立ってしまいます。そんな彼は同僚の女性に一目惚れし、妄想の中の彼は危険な香りがする冒険家になっていました。
ところが職場は閉鎖予定。『LIFE』誌は最終号の準備に入っており、彼女と会うチャンスも残り少し。そんなとき、表紙用のフィルムが行方不明となり、それを撮影した写真家を追い、グリーンランドからアイスランド、アフガニスタンへの旅に出ることに……。
じつはこれ、原作は『ウォルター・ミティの秘密の生活』という超短い短編小説で、1947年にも『虹を掴む男』として映画化されてます。が! 本作のほうが今を生きる私たちにぶっ刺さるはず。というのも「時代とともに現れ、そして消えた」ものを、私たちはこの数年でいくつも観てきているから。
舞台となる『LIFE』は、1936年に創刊され、07年に休刊するまでの間、いくつもの歴史的な一瞬を切り取り、20世紀を象徴する代表的なメディア。休刊後はウェブに移行し、その後ひっそりとクローズしました。ではそのかわりになるものはなにか。
SNSは『LIFE』レベルの報道もあれば、精査されていない有象無象の情報もあり玉石混交。おまけに、情報を得ようとする人次第で、見える世界も変わります。大冒険を通して生き方も価値観も様変わりするウォルターの経験を通して、そのときにしか見えないもの、手に入れられないもの、さらにはそれに伴う感情が、いかにかけがえのないことか。
そしてそれが人間性を育むかを描き出しています。これを観て、シンプルに「行ったことがない場所に旅をしよう」と思うだけでもOK。むしろウォルターのように、きっかけはどうあれ、十人十色の人生をエンジョイする知識と経験に結びつけることができればいいですよね。


