しあわせのカタチ

再生した月見台住宅、どうですか? #02

デッドストックの布でつくられる、刺繍のタペストリー、クロス、座布団に心ほどかれる「atelier & shop "Baai"」

ーー心に残る情景を、手縫い糸に込めながら|海を望む、高台の刺繍店「atelier&shop Baai」の昼下がり【再生した月見台住宅】


横須賀・長浦湾を見晴らす月見台住宅。1960年代に市営住宅として開発され、多くの人々が暮らしていたものの、徐々に静けさが広がり、いつしか時の流れを静かに刻むだけの場所となっていきました。

2020年には廃止され”天空の廃墟”とも称された、この場所が職住一体の“なりわい住宅”として息を吹き返したのは2023年のことです。 「再生した月見台住宅、どうですか?」では全3回に渡り、この場所でお店を営む方達をご紹介。

今回は、新しい発見や出会いが生まれる「場」でありたいという願いから作られたatelier & shop "Baai"。店主の馬場知佐さんに、誠実なものづくりの向き合い方や、自然から授かる素材選びのこだわりなどについて話を伺いました。

 新たな発見・出会いが生まれる場「atelier & shop "Baai"」

馬場さんのものづくりの原点は、幼少期まで遡ります。もともと手先を動かすことが好きだった馬場さんは、京都の芸術大学へ進学し、洋服作りや陶芸など、さまざまなものづくりに携わっていました。

「卒業後、いずれは作る側の立場に回りたいという想いを抱き、アパレル企業に就職しました。退職するまでの12年間、店頭での販売、仕入れや企画といったバイヤーとしての業務に携わっていました」

もともと好きなものだけに囲まれた空間を作りたいという願いがあったという馬場さん。同じくインテリアやものづくりを愛する夫と出会い、自らの拠点を構えることに。

「『Baai(ばあい)』というお店の名前は、場所の『場』そして『会う』という2つの文字が組み合わさっています。小さなことでも新しい発見があったり、会話から新しい出会いが生まれたり。そんなきっかけがたくさん見つかる場所になればいいなという願いをこめました」

海を見下ろし、月を見上げる高台のアトリエ

Baaiは、横須賀市田浦町の「月見台住宅」という、築60年以上の古い集合住宅の一戸をリノベーションしてオープンしました。

店内は馬場さんの工夫が随所に凝らされています。天井から吊るされた滑車の什器(じゅうき)は、天井の高さを活かしながら、自身の作品である布を最も美しく、かつ面白く見せるために考案したものだそうです。

「設計士さんに図面を書いてもらって、あとは設計士の方と私たち夫婦で木材をカットして作りました。初めて自分で手がけた木工の什器なので、とても気に入っています」

棚に並ぶブレンドティーは、蔵前にある「norm tea house」へオーダーしたもの。馬場さんが見た、奄美大島の風景をイメージして作られたものです。

「月が沈んだあと、月の明かりがなくなって、暗闇がさらに深い青に変わり、星がまた強く光り出して。その光景が忘れられなくてオーナーにお話ししたところ、私が見た風景からインスピレーションを受けて『月桃(げっとう)』というオリジナルブレンドティーを作ってくださいました」

心ほどかれる刺繍の作品を生み出す馬場さん
大切にしているのは「すでにあるもの」を使うこと

ものづくりにおいて馬場さんが大切にしているのは「自分に嘘をつかないこと」だといいます。

「日々の暮らしの中で感じた情景や、ふとした会話、あるいは自分の中に生じた小さな違和感。それらを流してしまわず、ていねいに溜めておくことが、作品をつくる時の引き出しとなると感じています」

作品に使う布や糸は、天然素材を選んでいるそう。さらに、布そのものも「新しく作る」のではなく「すでにあるもの」を大切にしたいという想いが強くあります。

「廃業した問屋さんの布を引き取っている生地屋さんによく行きます。その布がどこから来て、どんな物語があるのかを聞き、納得してから仕入れるようにしていて。だからこそ、一つひとつに愛着が持てるんだと思います」

最後に、馬場さんが思う幸せについて聞きました。

「実は、生まれてから一度も『幸せになりたい』と思ったことがないんです。それはきっと、ずっと幸せだから。大切な家族や友人がいて、作りたいものを作れる手があり、考えられる頭がある。風を気持ちいいと感じ、海を心地よいと思える自分の心がここにあること。それが私にとって、何よりの幸せなんです」

馬場知佐/「atelier & shop "Baai"」店主

馬場知佐/「atelier & shop "Baai"」店主

1989年生まれ。2012年に京都造形芸術大学卒業。2020年より植物で染めた布や糸を使った刺繍のタペストリーやモビールなどのオブジェ制作、インスタレーションを中心に活動。2025年12月にatelier & shop "Baai"を月見台住宅にオープン、定期的に端材を使用した子ども向けのワークショップも開催している。

Instagram: chisa_baba
atelier & shop "Baai"

atelier & shop "Baai"

住所:神奈川県横須賀市田浦町月見台住宅a28

Instagram: atelierbaai

画像/船場拓真
文/山﨑穂花
記事制作/株式会社ZEN PLACE
取材協力/株式会社エンジョイワークス

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※本記事は2026年2月に行った取材をもとに制作されたものです

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