しあわせのカタチ

映画ライター・よしひろまさみちの週刊映画コラム「後は、ご自由に」

#07『Tick, tick... BOOM! : チック、チック…ブーン!』|映画ライター・よしひろまさみちの週刊映画コラム「後は、ご自由に」

映画ライターで日本アカデミー賞会員のよしひろまさみちさんが、毎月のテーマに合わせて作品を紹介する週刊映画コラム「後は、ご自由に」。

4月のテーマは、“初めて”を乗りこなす、ヒントが見つかる映画。新生活が始まった人も多いと思いますが、"初めて”を怖がり過ぎず、そのまま受け止めて向き合うことができたら、なんだかんだ悪くないかもと思えるはず。

4月第4週目は、心の何処かで「これだけは追い続けたい」と強い思いを持つ人にこそ観てもらいたい『Tick, tick... BOOM! : チック、チック…ブーン!』をご紹介。

夢を叶えられず、気づけば30代目前
主人公・ジョナサンは焦燥感に駆られつつも、創作欲求は溢れ出て…

体力とやる気は十分。作りたいものもあるし、それを作り出す才能もある。だけど、コネもなければカネもない。クリエイターを目指す人が最初にぶつかる壁はこれでしょう。

もちろんこの分野で成功するには才能があってのことだから、一部の人しか観られない高みかもしれません。だけど、何が起きるかわからないのも人生の楽しみ。

もしくは、経済的には夢とは別のことをしつつ、ドリーマーと言われても夢を追い続け、挑戦をし続けることが、もしかしたら人生の華やぎを与えてくれることもあるかも。

Netflix映画『Tick, tick... BOOM! : チック、チック…ブーン!』は、心の何処かで「これだけは追い続けたい」と強い思いを持つ人にこそご覧いただきたい作品です。

ブロードウェイで大ヒットの後に映画化もされただけでなく、日本版も上演された、不朽の名作ミュージカル『RENT/レント』。この作品のクリエイターであるジョナサン・ラーソンが、『RENT~』を生み出すまでを描き出したミュージカル映画です。

ちなみに『RENT~』はご存知でしょうか? プッチーニのオペラ『ラ・ボエーム』を下敷きに、90年代のNYを舞台に移したロックミュージカルです。

8人の若者たちが夢を追い、家賃の支払いに追われつつも、自分自身の人生を見出そうとする姿を描き、あらゆるアワードを受賞した名作です。この作品が生まれたのは、30歳を目前に、自分のキャリアについて苦悩するジョナサン・ラーソンが自身を投影し描き出した、とされています。そのいきさつを描いたのがこの『Tick, tick... BOOM!~』。

世界のクリエイターが集結するライバルだらけのNYで、三十路になるというのに夢を追っていていいのか? 焦りまくるジョナサンですが、彼の創造への欲求は止まりません。プレッシャーに押しつぶされそうになっても最高の作品とはなにか、自分にとって最良の選択はなにかを模索します。

夢を叶えた大ヒット作のクリエイターに共感を、と言われても……となる人もいるでしょう。でもね、彼のその後を知ったら何が大事かわかるはず。ジョナサンは大ヒットを観ることなく、この作品の開幕直前に他界しているんです。

認められなくても自分自身のやりたいことをつきつめ、クリエイターとして形にすること。これこそが一番大切なことだ、ということが分かるはずです。

よしひろまさみち

よしひろまさみち

東京都出身。映画ライター。日本映画ペンクラブ。日本アカデミー賞会員。ゴールデングローブ賞International Voter。音楽誌や女性誌などで編集部員として業務に従事した後、28歳で独立。日本テレビ「スッキリ」で月1回の映画コーナーを11年間に渡って担当したほか、現在も数多くの雑誌やWebメディアで映画紹介の連載を担当。語りかけるような文体や作品と丁寧に向き合ったからこそ綴られる多角的な見解で、多くの映画ファンに支持されている。

Instagram: hannysroom
反田 零

反田 零

神奈川県出身。二級建築士。青山製図専門学校卒業後、設計事務所に入社。2021年よりイラストレーターとしての活動を開始。iPhoneのディスプレイに指で直接描かれる、色鮮やかで情緒的な作風が注目されている。雑誌「Numero TOKYO」の企画や、アーティストがリリースする楽曲のジャケットデザインなども手掛ける。

Instagram: k_sotta_rei

『Tick, tick... BOOM! : チック、チック…ブーン!』
監督:リン=マニュエル・ミランダ/出演:アンドリュー・ガーフィールド、アレンクサンドラ・シップ ほか/配信:Netflixにて独占配信中

文/よしひろまさみち 
絵/反田零
記事制作/株式会社ZEN PLACE

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