しあわせのカタチ

映画ライター・よしひろまさみちの週刊映画コラム「後は、ご自由に」

#08『最強のふたり』|映画ライター・よしひろまさみちの週刊映画コラム「後は、ご自由に」

映画ライターで日本アカデミー賞会員のよしひろまさみちさんが、毎月のテーマに合わせて作品を紹介する週刊映画コラム「後は、ご自由に」。

4月のテーマは、“初めて”を乗りこなす、ヒントが見つかる映画。新生活が始まった人も多いと思いますが、"初めて”を怖がり過ぎず、そのまま受け止めて向き合うことができたら、なんだかんだ悪くないかもと思えるはず。

4月第5週目は、幾重にも重ねた対話によって真逆と言ってもいい2人が介護だけに留まらず、友人のような関係を築いていく『最強のふたり』をご紹介。

「共通点がない」「性格が合わない」と思っても
早々に対話を避けるのは、ちょっと待って

なんとなくやってるけど、何に向いているか分からない……。幸運にも興味があることを仕事にしている人、もしくは経験は豊富な人でも、新生活を始めてワクワクドキドキの新人が周囲に増えるこの季節は、そんなことを考えてしまうこともありましょう。

そんなときにご覧いただきたいのは『最強のふたり』。フランス映画としては当時の日本で最大級のヒットを打ち出した友情のドラマです。

頭脳明晰な大富豪のフィリップはひとつだけ不自由がありました。それは身体。首から下が完全に麻痺し、24時間介護の手を借りないと生きることができません。そんな彼の介護役として雇われたのは、刑務所を出たばかりで行政に提出する書類のためだけに面接にやってきたドリス。

介護の知識ゼロのうえに粗野で、フィリップの住む世界の人々とはおよそ合わない性格のドリスに興味を持ったフィリップは、彼をお試しで採用していしまいます。

これが完全にフィクションだったら、ドタバタ喜劇か狂気のバイオレンスのエンタメとして消費される作品になったでしょう。

が、これは実話がベース。まったく合わないはずの2人が出会うことで、お互いに気付かされたこと、それによって育まれた友情があったのです。

共通点がない。性格が合わない。見えている世界が違う。などなど、他者を拒絶する理由はたくさんありますよね。特に経験豊富なおとなは、自分とは考えが違うというだけで、頭から否定をしてしまいがちではないでしょうか? フィリップ、そしてフィリップの周りにいる人々とドリスもそうでした。

でも、互いに本質が見えてからの彼らは一気に変わっていきます。そのプロセスには何があったかといえば、分からないことを分からないままにせず、徹底的に重ねた対話。

フィリップの介護という避けて通れないことはあるにせよ、人と人が分かり合うためには、まずは対話が必要。そして、向き不向きもそれによってはっきりと見えてくるんですね。だって、本作冒頭のドリスは、介護のカも知らないド素人。だけど、対話と経験、そして育まれた友情によって、フィリップにとって他には代わる人がいない介護役になったんですから。

ここまでドラマチックな変化はそうそうないにしても、出会いのチャンスと変化の幅は人それぞれ。まずは近いところにいるけど、お互いのことをよく知らない、という人に目を向け、対話してみるのはどうでしょう?

よしひろまさみち

よしひろまさみち

東京都出身。映画ライター。日本映画ペンクラブ。日本アカデミー賞会員。ゴールデングローブ賞International Voter。音楽誌や女性誌などで編集部員として業務に従事した後、28歳で独立。日本テレビ「スッキリ」で月1回の映画コーナーを11年間に渡って担当したほか、現在も数多くの雑誌やWebメディアで映画紹介の連載を担当。語りかけるような文体や作品と丁寧に向き合ったからこそ綴られる多角的な見解で、多くの映画ファンに支持されている。

Instagram: hannysroom
反田 零

反田 零

神奈川県出身。二級建築士。青山製図専門学校卒業後、設計事務所に入社。2021年よりイラストレーターとしての活動を開始。iPhoneのディスプレイに指で直接描かれる、色鮮やかで情緒的な作風が注目されている。雑誌「Numero TOKYO」の企画や、アーティストがリリースする楽曲のジャケットデザインなども手掛ける。

Instagram: k_sotta_rei

『最強のふたり』
監督:エリック・トレダノ、オリビエ・ナカシュ/出演:フランソワ・クリュゼ、オマール・シー ほか/DVD、Blu-ray発売中(販売・発売:ギャガ)/配信:Huluにて配信中

文/よしひろまさみち 
絵/反田零
記事制作/株式会社ZEN PLACE

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