映画ライター・よしひろまさみちの週刊映画コラム「後は、ご自由に」
#03 『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』|映画ライター・よしひろまさみちの週刊映画コラム「後は、ご自由に」

映画ライターで日本アカデミー賞会員のよしひろまさみちさんが、毎月のテーマに合わせて作品を紹介する週刊映画コラム「後は、ご自由に」。
3月のテーマは、“自分だけのものさしを、手に入れられる映画”。新生活が控えた3月は、どうしても周りと比較してしまいがちですが…マインドフルな状態でいられれば、以前とは違った感覚で人や物事に触れられるはず。
第3週目は料理は一流だけど他はイマイチ上手くいかないシェフ、カールが料理と向き合い直すことで、自身の魅力や手放すべきものに気付いていく『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』をご紹介。
ゴールが分かれば、自分の人生にとって本当に必要なものが分かってくるはず
どんなに経験を重ねたとしても、名声を得るのは並大抵のことではありません。その一方で、名声を失うのは一瞬のこと。SNSなど、なにをきっかけに炎上するか分かったもんじゃない時代ですからね。
もちろん、その人に問題があるのなら、名声は分不相応だったか、時期尚早だったんでしょう。が、いわれのないことで名声と信用を失ったとき、見えてくるものがあります。それを描いた傑作が『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』という映画。
『アイアンマン』などの監督兼俳優、ジョン・ファヴローが「どうしても作りたいから」と、自身のプロダクションで手弁当した作品でもあります。
LAの有名レストランのシェフであるカールは、人気の既存メニューにこだわるオーナーと衝突しているさなか、来店した批評家と大喧嘩をして、それがTwitterで拡散。一夜にして無職になります。ただ、彼にはやりたい料理、試してみたいことがありました。
一流レストランで出す高級食材の料理ではなく、もっと庶民的かつお腹がふくれて抜群にうまいもの。ひらめいたのは、元妻の出身地マイアミでソウルフードとされるキューバサンドイッチでした。そこでフードトラックを手に入れた彼は、息子との関係修復も兼ねて、マイアミ〜LAの試作販売ドライブツアーに出ます。
カールは料理人としての腕、センスは抜群で、自分の作る料理には絶対の自信がありますが、ほかではいろいろと問題を抱えています。経営もできる可能性を持っているのに、雇われシェフのために自由がきかず。
そのため、職場での奮闘が空回りし、元妻のもとで暮らす息子と親子関係までギクシャク。名声を持つシェフとして期待に応えようとするばかり、いろいろうまくいかない理由ははっきりしているのに踏み出せずにいたんですね。
それが一夜にして無名のおじさんになったことで、料理の腕ひとつで再起を図ろうとするのが本作。とはいえ、有名人の話じゃん、と思った方もいるでしょう。でも、原因ははっきりしていても、プライドが邪魔して問題解決に至らない。
もしくは問題を余計こじらせることもある……と考えるとどうでしょう。どなたでも心当たりありますよね? 大きなものを得るためには何かを手放さないといけない。物語序盤のカールの場合、料理人として名声を維持するためには、好奇心と探究心を捨てないといけなかったですし、父親として親子関係を続けるためには、たまに会う息子と一緒にいるだけで共有するものはなにもありませんでした。
それが名声を失ってから、自分が本当に何を求めていたのか、息子が求めていることは何だったのか、ということに気づき始めます。このくだり、カールのような境遇ではなかったにしても、どこか自分を重ねることができるはず。自分にしかない魅力、自分にしかできないことに気づき、それを伸ばすために邪魔になるっていることはなにか。整理してみませんか?


