映画ライター・よしひろまさみちの週刊映画コラム「後は、ご自由に」
#06 『her/世界でひとつの彼女』|映画ライター・よしひろまさみちの週刊映画コラム「後は、ご自由に」

映画ライターで日本アカデミー賞会員のよしひろまさみちさんが、毎月のテーマに合わせて作品を紹介する週刊映画コラム「後は、ご自由に」。
4月のテーマは、“初めて”を乗りこなす、ヒントが見つかる映画。新生活が始まった人も多いと思いますが、"初めて”を怖がり過ぎず、そのまま受け止めて向き合うことができたら、なんだかんだ悪くないかもと思えるはず。
4月第3週目は、AI過渡期の2014年に制作され、AIが日常に溶け込んだ近未来を描いた『her/世界でひとつの彼女』をご紹介。
AIに恋心を寄せる主人公・セオドアは
次第に現実とAIと過ごす時間が逆転し始めて…
AIにまつわるテクノロジーは日進月歩。かねてからシンギュラリティは遠くない、とされてきましたが、ほぼほぼもうそこに到達しつつあるのでは? ということがささやかれはじめています。この問題をベースにしたSFサスペンス映画は数多く作られてきましたが、終末論を語っている場合じゃないのが令和の今。
だって、みなさん日常的にインターネットを使い、AI機能を使っていますし、それによって蓄積されたデータによって生活が営まれているんですから。AIとの距離をどうとって活用すべきか。そしてそれによって文明的な生活をどのように向上させていくかを考えるべきです。そこで良くも悪くもヒントになるのが『her/世界でひとつの彼女』というSFラブロマンス。
近未来。ラブレターなど大事な手紙を代筆する仕事をしているセオドアは、妻と別れたばかりで落ち込んでいました。そんなときに頼りになったのは、AI。女性の声色でサマンサと名付けられたAIは、彼の頼りになるばかりか、心の傷を癒やしていく存在になっていきます。やがて彼はサマンサに恋心を抱き、AIと過ごす時間にこそ自分の人生があると勘違いするように……。
見方によっては夢のあるラブロマンスでもありますが、いやいや……擬人化したAIに恋するなんてナンセンスです。ただ、これがほぼ現実に起きている今ちょっとしたホラーとしても受けとめられるのではないでしょうか。
この作品が作られた2014年は、AIはまだまだ一般利用の範囲ではない過渡期。どうなるか分からないものに対して、これだけの想像力を働かせることができた監督・脚本のスパイク・ジョーンズはさすがとしかいいようがありません(ちなみに彼の作ってきた映画はもちろん、ミュージックビデオはどれも名作中の名作ですので、ご興味を持たれた方はぜひAIで検索を)。
新しいこと、新しいものを眼の前にしたときにすべきことは試行錯誤。なんぼ便利で手放せないものだったとしても、人間性や倫理観を失うほど頼り切るのはいかがなものか。利便性だけでなく距離感も追求して。そう、自分が飲み込まれないよう。


