再生した月見台住宅、どうですか? #01
“天空の廃墟”に芽吹いた園芸店「NOASOBI」

横須賀・長浦湾を見晴らす月見台住宅。1960年代に市営住宅として開発され、多くの人々が暮らしていたものの、徐々に静けさが広がり、いつしか時の流れを静かに刻むだけの場所となっていきました。
2020年には廃止され”天空の廃墟”とも称された、この場所が職住一体の“なりわい住宅”として息を吹き返したのは2023年のことです。 「再生した月見台住宅、どうですか?」では全3回に渡り、この場所でお店を営む方達をご紹介。
今回は敷地に入る階段を上ってすぐの園芸店「NOASOBI」の店主・大木マリさんが植物とともにある生き方を選んだわけ、そして訪れる人に広げていきたい想いをお聞きしました。

母親は「緑の指を持つ人」
植物が身近にある生活から得たもの
大木さんが生まれ育ったのは、東京都の東エリア。実家は金魚屋さんを営み、幼い頃から生き物や植物が身近にある生活でした。母親は植物を上手に育てられる、いわゆる「緑の指を持つ人」だったそうです。一緒に園芸店へ通ったり、季節の植物でリースを作る母親に木の実やツルを渡すととても喜んでもらえたり。
そんな経験が後押しして、進学先も造園や植物について学べる学校に。ただ、卒業後は全く異なる道へ進みました。
「植物と同じぐらい、文章を書くことや写真を撮ること、見ることが好きで、おまけにデザインも好きだったんです。その全てに関われるのは何か考えたとき、雑誌の編集部だったんです」
編集者として地方のお店に出向き、生きたいように生きる人の話を聞く。それを編み、雑誌として世に出すやりがいを感じていた一方、自分はどう生きたいのかを考えるようになったそうです。
「フリーライターを続ける傍ら、造園会社や園芸店に7年ほど勤めました。やはり心にいつも植物があり、緑に関わる仕事がしたかったんです」

植物と共生する楽しさを提案する「NOASOBI」
園芸店での経験を経て、2025年10月にオープンした「NOASOBI」。幼少期に自然の中で遊んだ体験を、植物のある楽しい暮らしを通して思い出してもらえるようなお店にしたいという想いが込められています。
「入り口を入って左は『NAYA』という名前でギャラリーやワークショップを行うスペースになっています。NAYA=納屋の意味合いで、植物も人も動物も緩やかに繋がれる、そんな温かな空間を作っていきたいです」
お店には季節の植物や花々が並び、取材時にはミモザのリースが飾られていました。月見台住宅を選んだ理由は、自然と暮らしが地続きになっていることが実感できる場所だったからだと話します。
「空き家の再生などを通して、地域の活気を取り戻すことに興味がありました。また、ここは日当たりや風通しも抜群。なんと言っても、広い庭が付いていることに心掴まれました。将来的には庭でさまざまな植物を栽培したいと思っています」

月見台住宅というコミュニティ
飲食店をはじめ、雑貨店や古着屋など、25店舗ほどが軒を連ねる月見台住宅。この地を選び、同時期にお店をオープンしたからこそ感じられることがあるそうです。
「まずもって、一人ではないと思わせてくれるところ。何気ない会話で心が軽くなったり、困り事があったら助け合ったりできるのも、この土地を選んで良かったと思う理由の一つです。
ともに「NOASOBI」の運営を行っている者がケガをした時も、月見台住宅の仲間たちが次々に声を掛けて気にかけてくださって、本当に嬉しかったです」

互いに優しさを分かち合える世の中になれば
オープンして6ヶ月。ご近所さんはもちろん、横須賀市内各地から、中には散策がてら毎日訪れる人もいるという「NOASOBI」。大木さんはこの場所から一人ひとりの人生に“ご機嫌な瞬間”を増やしていきたいと話します。
「世界って広すぎて自分だけで変えていくのは難しいですが、お会いする一人ひとりの笑顔が増えていけば、平和が訪れると信じていて。新しい植物との出会いやワークショップ、普段の何気ない会話から少しでも前向きな気持ちになってもらえたら嬉しいです」

最後に、大木さんが思う幸せについてお聞きしました。
「自然界は厳しいながらも陸・海・空で生きる生物たちが、ちょうどいい距離感で共生していますよね。それをお手本としながら、人も互いの価値観や生き方を認め合い、脅かすことのない関係が築けていけたら幸せだなって思います。
そう出来るようになるために、まずは自分が満たされている状態になることが大切。“満たされゲージ”が満タンになったら、その溢れたものが自然と優しさとなって周りと分かち合えるはず、そして皆一人ひとりがそうなっていけたら素晴らしい世界になるなと思います」


