しあわせのカタチ

映画ライター・よしひろまさみちの週刊映画コラム「後は、ご自由に」

#04 『マリッジ・ストーリー』|映画ライター・よしひろまさみちの週刊映画コラム「後は、ご自由に」

映画ライターで日本アカデミー賞会員のよしひろまさみちさんが、毎月のテーマに合わせて作品を紹介する週刊映画コラム「後は、ご自由に」。

3月のテーマは、“自分だけのものさしを、手に入れられる映画”。新生活が控えた3月は、どうしても周りと比較してしまいがちですが…マインドフルな状態でいられれば、以前とは違った感覚で人や物事に触れられるはず。

第4週目は、終わりへと向かう子を持つ夫婦の“別れのプロセス”を丁寧に描いた『マリッジ・ストーリー』をご紹介。

新しい人生を始めるために、何かを終わりにしなければいけない。
それは、分かっているけれど…

離婚を描いた映画はあまたありますが、多くは離婚の泥沼、もしくはどちらか確定した悪者を成敗する勧善懲悪もの。第92回アカデミー賞で6部門候補入り、1部門受賞したNetflix映画『マリッジ・ストーリー』は、そのどちらでもなく、大人だからこそジタバタする心情を描いたヒューマンドラマです。本作は離婚劇ではありますが、タイトルが示すとおり、これは終わりの物語ではなく「結婚生活にまつわる物語」。

舞台演出家のチャーリーと俳優のニコールは、同じ業界で活躍する夫婦。ビジネスの上ではパートナーとしてやっていけてますが、結婚生活はほぼ修復不可能。そこで円満に別れようとするものの、長年溜め込んだ不満があらわに。そこでお互いに弁護士を立てて離婚協議を進めることになります。

離婚協議に弁護士を立てることは、今や日本でも当たり前になりましたが、当事者同士、それも一度は家族になった人を相手に、無感情に話を進めることはできませんよね。2人ともハラスメントや暴力があったわけでもないけど、もはや別れたほうが幸せ。

結論は見えているのに、円満に進められない。そこには「家族」となってしまったパートナーへの甘え、それぞれが築いてきた経験によって生まれたプライド、共依存にも似た関係性があることによって、ことは厄介になってしまいます。

だからこそ代理人をたてて離婚訴訟するのがベスト……のはずなんですが、チャーリーとニコールにとってベストだったかどうかは本編を。あまりにも苛烈な代理人バトルは、「こんなことになるんだったら……」と思わずにはいられません。

さて、ここで注目いただきたいのは、他人同士が家族になる=結婚が、当事者のQOLにどのように作用するか、です。自分とは異なる価値観やテイストを他者から得て、それがQOL向上につながることはいわずもがな。ところが、それを結婚生活で育んでいくには、互いの協力、助け合いが必要です。結婚がベストの人もいれば、そうでない人も。

向き不向きがあるのに、結婚して家庭を持つ=人生のゴールとするには無理があるのでは?互いに高め合う関係の家族は理想ですが、そうはならない人、ならなかった人は「失敗した」と断じるのはナンセンス。

自分の人生は自分が主人公ですから、QOLが高く、パートナー、家族も高め合う存在でないと。これを観ると、結婚って、家族ってなんだろう、と我が身を振り返るはずです。

よしひろまさみち

よしひろまさみち

東京都出身。映画ライター。日本映画ペンクラブ。日本アカデミー賞会員。ゴールデングローブ賞International Voter。音楽誌や女性誌などで編集部員として業務に従事した後、28歳で独立。日本テレビ「スッキリ」で月1回の映画コーナーを11年間に渡って担当したほか、現在も数多くの雑誌やWebメディアで映画紹介の連載を担当。語りかけるような文体や作品と丁寧に向き合ったからこそ綴られる多角的な見解で、多くの映画ファンに支持されている。

Instagram: hannysroom
反田 零

反田 零

神奈川県出身。二級建築士。青山製図専門学校卒業後、設計事務所に入社。2021年よりイラストレーターとしての活動を開始。iPhoneのディスプレイに指で直接描かれる、色鮮やかで情緒的な作風が注目されている。雑誌「Numero TOKYO」の企画や、アーティストがリリースする楽曲のジャケットデザインなども手掛ける。

Instagram: k_sotta_rei

『マリッジ・ストーリー』
監督:ノア・バームバック/出演:アダム・ドライヴァー、スカーレット・ヨハンソン ほか/配信:Netflixにて独占配信中

文/よしひろまさみち 
絵/反田零
記事制作/株式会社ZEN PLACE

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