映画ライター・よしひろまさみちの週刊映画コラム「後は、ご自由に」
#05 『プラダを着た悪魔』|映画ライター・よしひろまさみちの週刊映画コラム「後は、ご自由に」

映画ライターで日本アカデミー賞会員のよしひろまさみちさんが、毎月のテーマに合わせて作品を紹介する週刊映画コラム「後は、ご自由に」。
4月のテーマは、“初めて”を乗りこなす、ヒントが見つかる映画。新生活が始まった人も多いと思いますが、"初めて”を怖がり過ぎず、そのまま受け止めて向き合うことができたら、なんだかんだ悪くないかもと思えるはず。
4月第1週目は、5月に20年ぶりの続編公開が控えている傑作『プラダを着た悪魔』をご紹介。
どんな仕事でも「必要とされる存在」になるためには主張しているだけではダメ
20年ぶりとなるまさかの続編が公開を控え、話題になっている『プラダを着た悪魔』。これ、何度観ても飽きない&色褪せない傑作なんですよ。何がすごいかって、この季節にぴったりの「モチベ」についてを掘り下げた普遍のテーマってこと。
原作となったのは同名小説。著者のローレン・ワイズバーガーは、ヴォーグ誌の編集長アシスタントを務めた経験を、この小説のベースにした、と言われています。映画となった本作は、誰も傷つかない、全員がハッピーになる、という最高の演出をしたことで、長年愛される傑作となりました。
主人公のアンディはジャーナリストになる夢を携えNYへ。そこで得た仕事はモード誌編集部の編集長アシスタント。編集長ミランダは、ファッション業界全体を動かすことができるほどの実力者で、このアシスタント職をこなすことができれば、どのメディアの仕事にも転職ができます。
ところが、仕事の鬼・ミランダのサポートは心折れることばかり。くじけそうになったアンディですが、先輩編集者の一言でキャリアメイクの方法を考え直します。
当時はパワハラなんて言葉もなかったですし、特に日本ではフルタイム職の大半は終身雇用という時代。だからこそ、「夢の仕事には苦労がつきものだから、耐えてど根性で乗り切れ」といったメッセージとしてとらえられました。ところが時を経て見直すと分かることは、自己実現のために必要なのは適応力であり、自己主張は二の次、ということ。
アンディは自分の夢のために興味のないファッション誌の仕事にチャレンジします。そこには「自分は長くここにはいない。履歴書に書ける経歴がほしい」といった甘えがありました。それゆえに、ミランダの鬼のような仕事ぶりにはついていくのがやっと。そこでの仕事の本質は何か、どういった価値観、達成目標をもって一丸となっているのか理解しようとしなかったために、やりがいを感じることができません。
でも、自己実現のためにはやめる気もない。負のサイクルまっしぐらですよね。でも、先輩ナイジェルからの叱責をきっかけに彼女は一変。この叱責シーンは本作最大の見せ場なので、ご覧いただいてからのお楽しみですが、これほどまでに分かりやすく、それでいてどんな仕事においても大事な教訓はない、と思わせるセリフです。
どんな仕事でも「必要とされる存在」になるためには、主張しているだけではダメ。そして、その場に即した適応力は「我慢」して実行するものではない。
向き不向きやゴールの設定など、人それぞれ違いますが、仕事における基本のキを考えさせられる映画だけに、新生活を始めた人はもちろん、新人をケアする立場にあるベテランの皆さんもご覧に。もちろんその後は映画館で続編を楽しんで下さいね。


