07|本屋ひとりごこち「さまざまな人に、「この場所に居てもいい」と思ってもらえるように」
映画ライター・よしひろまさみちの、ほぼ週刊映画コラム「後は、ご自由に」
#15『ROMA/ローマ』|映画ライター・よしひろまさみちの、ほぼ週刊映画コラム「後は、ご自由に」

映画ライターで日本アカデミー賞会員のよしひろまさみちさんが、毎月のテーマに合わせて作品を紹介する、ほぼ週刊の映画コラム「後は、ご自由に」。
6月のテーマは、一人の女性の視点をベースに本質への気づきを与えてくれる映画。第15回は、70年代のメキシコ・ローマに住む中流家庭で、家族同然の関係性を築いている家政婦クレオの視点から勝手な振る舞いや暴力へのNOを突き付ける映画『ROMA/ローマ』をご紹介。
監督自身の幼少期を投影した、シリアスなフィクションでありながらも、自身の幼少期・成長期の感覚を思い出させてくれる
これぞ作り手の原体験そのもの、という映画はいろいろありますが、Netflix映画『ROMA/ローマ』ほど写実的で美しい作品はない、と思っています。
この映画の出会いからして「私の原体験」のひとつに入ってしまうほどでした。2018年のヴェネチア国際映画祭で最高賞の金獅子賞を獲得の直後、トロント国際映画祭で上映されたときに私もその場にいました……が、まるで主人公の人生を垣間見るような感覚と、前情報がなくても「これは監督の幼少期にあった記憶の断片」と分かるほどでした。
舞台は1970年のメキシコシティ。コロニア・ローマと呼ばれる地域で住み込みで働く家政婦クレオが主人公です。彼女の雇い主である医師のアントニオと妻のソフィア、彼らの4人の子とソフィアの母、そして同じ家政婦のアデラとともに暮らしています。
クレオは家事の手伝いのみならず、4人の子の送り迎えや子守もしており、いわば家族も同然。ソフィアは夫婦関係が薄くなったことも相まって、かいがいしく働くクレオに親しみを抱いています。
ある日、クレオがボーイフレンドの子を妊娠したことが分かるものの、彼が子を認知しないどころか暴力的に彼女を遠ざけ、クレオは頼るところを失います。そんなときも彼女の拠り所はソフィアとその家族でした。彼女の出産予定美間近、大事件が起こるのですが……。
クレオ自身に起きた変化とソフィアとその家族の生活、そして当時のメキシコで起きた社会的な事件を、彼女の目を通して淡々と綴ったこの作品。
監督のアルフォンソ・キュアロン曰く、この作品はフィクションながらも自分の幼少期の投影ということを認めています。
ざっと読んだだけでも「男性の不在と暴力」が際立つと思いませんか?
家族の中では第三者である家政婦の目を通して、家父長制的な家族の常識とその理不尽、貧富格差問題、苦難があったとしても支え合う絶対的家族愛などなどを描きつつ、身勝手な振る舞いや暴力へのNOをつきつけているんです。
もっと分かりやすくいえば、日本にもありましたよね、「家政婦は見た」シリーズ。子供の頃の原体験をもとにしながら、客観性を失うことなく描ききった監督の手腕には驚きを隠せません。
と、ここで考えていただきたいのは、この作品を観たあなたがどう感じ、自分の幼少期や成長期のことを客観視できるかです。
天才監督だからできたこと、ではなく、やっていただきたい。なぜなら、この作業をすることによって浮かび上がってくるのは「けっしていい思い出/悪い思い出だけではない」ことだから。
この作品は映画史に残るほどの映像美で敢えて美しい映像で見せていますが、それは「よそゆき」の顔だから。原体験をありのままに思い出すことで、次の一歩を踏み出すきっかけになるかもしれませんよ。



