しあわせのカタチ

古民家暮らし、「かのや」の青梅日日記。

古民家暮らし、「かのや」の青梅日日記。
06|行き先を決める人と、進める人

山々に囲まれ、すぐそばには多摩川が流れる青梅の古民家「かのや」。暮らすのは織さんと夫と6歳の双子の子どもたち。ここでは何かを成し遂げるためではなく、日々の中に宿る感覚を丁寧に受け取ることから始まります。

連載「古民家暮らし、「かのや」の青梅日日(にちにち)記。」では、幸せを“探す”生き方から、“感じる”生き方へと戻った織さんと家族の日々が綴られます。

第6回目は、かのやに移り住んでから変わった夫婦の関係性ついて。

夫婦や家族のかたちは、それぞれが絶妙なバランスで成り立っていて、“普通”という言葉には、当てはめられないものだと思っています。私たち夫婦のかたちもまた、たぶん、少し変わっています。

とても現実的で行動力のある彼と、想像的で夢見がちな私。両者の意見がぴたりとはまるときは、鬼に金棒、翼の生えた虎のごとく最強なのですが、分かり合えないときは、永遠に平行線をたどります。

そんな彼との関係性が、少し変わったきっかけがありました。

この地に越してくる前のこと。山や川に囲まれた場所で、古い家に住みたい。畑があって、土の上を歩く生活がしたい。そう私が話したとき、彼は小さな川が流れる街の、小さな庭付きマンションの1階の物件を提案し、私を驚愕させました。

仕事を続ける上で都内に住むことはマスト。東京という地価の高い場所で、一軒家を建てるのは非合理的。庭付きマンションでプランター栽培をすれば、私の夢は叶うだろう。彼なりの、合理的で現実的な判断でした。

でも、私の思い描く理想とは違う。何度説明しても、大切な何かが伝わらない。同じゴールに向かいたいはずなのに、お互いが違う方向を向いている。

はて、どうしたものか…と頭を抱えていたとき、たまたま来日していたウルグアイのムヒカ大統領のスピーチを彼が耳にしたことで、状況は一変しました。

「妻は、ただ非現実的な夢物語を語っているのだと思っていたけれど、実はその奥には、ムヒカ大統領が警鐘を鳴らしている未来へのひとつの答えがあるのかもしれない」

彼がそう言って私の古民家探しを手伝い始めてくれたとき、お互いが、やっと同じ方向を向けた感覚がありました。

こんな解釈エラーは、日常茶飯事なので、私たちはとてもよく話し合います。誤解やすれ違いが生まれる前に、互いの認識をすり合わせることを大切にしています。

夫婦は他人だから分かり合えないものだと割り切る考え方もあると思いますが、私はどちらかというと、とことん分かり合いたい派。そして、同じゴールに向かって、一生歩みを共にしていきたい。

だから、家事や子育てのこと、お互いの仕事や人生の目標、幸せだと感じることや嫌だと感じることについて、些細なことでも共有しています。と言っても、“話し合っている”と思っているのは私だけで、実際は、私が一方的に話しているだけ、なことも多いのですが。

行動力のある彼は、ほどなくして、山と川に囲まれた地の古民家を見つけてきてくれました。それ以来、家の内装やデザインについても、ほとんど私のアイデアを採用してくれています。

彼曰く、「自分が考えると、世の中的に“正しい”とされるものを選んでしまう。それだと間違いはないけれど、つまらない。だから、あなたの突拍子もないアイデアを採用したい」

行き先を私の感性に委ねてくれていることが、私にはとても嬉しいのです。彼はよく、私たち夫婦の関係を船長と航海士に例えます。船長は私。彼は航海士。私は甲板の上で、いつも「あっちに行くぞ〜!」と叫ぶ役。

でも実は、航路も読めなければ、帆を張って船を動かすこともできない。なのに、誰も通らないような方角を指さす。彼はそれを、驚きながらも楽しんでくれます。

みんなが通る安全な航路を進んでいても、人生は面白くない。私が指さす方は、たいてい波瀾万丈で、何が起きるか分からないけれど、その予定不調和な道のりの方が面白い、のだそうです。

とはいえ、現実的な航海士ですし小さな乗組員も2人増えましたから、「今日も船長が変なこと言ってるなぁ」と、にこにこ聞くだけで、そう簡単に舵は切られません。

今は、寝室の壁一面に日本画を大きく貼りたい!と、唐突にひらめいてしまった私のアイデアを必死に説得しているところ。「なんで?日本画を?壁全面に?」と、きょとんとしている彼が、「それは面白そうだね」に変わり、帆を張ってくれるまで。

わが家の夫婦間のコミュニケーションという名の航海は、今日も続いています。

織 ORI 「かのや主宰』

織 ORI 「かのや主宰』

東京都青梅市にあるおよそ築100年の古民家に、夫と双子とともに暮らす。建築士・インテリアデザイナーとしての経験を生かし、古い建物が持つ美しさを大切にしながら、その人が本当に心地よく生きられる暮らしを、かたちにする手伝いをしている。

文・写真/織 ORI
記事制作/株式会社ZEN PLACE

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