しあわせのカタチ

古民家暮らし、「かのや」の青梅日日記。

12|暮らしながら備える
古民家暮らし、「かのや」の青梅日日記。

山々に囲まれ、すぐそばには多摩川が流れる青梅の古民家「かのや」。暮らすのは織さんと夫と6歳の双子の子どもたち。ここでは何かを成し遂げるためではなく、日々の中に宿る感覚を丁寧に受け取ることから始まります。連載「古民家暮らし、「かのや」の青梅日日(にちにち)記。」では、幸せを“探す”生き方から、“感じる”生き方へと戻った織さんと家族の日々が綴られます。

第12回目は、古民家暮らしならではの「いざ、というとき」の日常への落とし込み方について。

東日本で大きな災害が起きたとき、私は東京にいて、幸いにも無事でした。でも断続的に続く余震に、家の中で眠ることが怖くなりました。何度も起きる停電で、冷蔵庫の中のものは溶けたり傷んだりするし、照明もテレビもつかない。

電気が止まるだけで、こんなにも何も出来なくなるのか。あの時、都市の暮らしが見えないインフラの上に、かろうじて乗っているのだと知りました。

そして、これはずいぶん極端な考えですが、“震災が起きても、インフラが止まっても生きていけるような強い人間になりたい”とも思ったのです。

そこで一度、自給自足の暮らしを目指してみたこともあります。けれど、それはそれで大変で、私にはとても続きませんでした。

理想は掲げるけれど、すぐ挫折してしまう。どうやら私は、そんな弱い人間でもあるようです。それでも、インフラに頼りきらない自分たちに合ったやり方はないものかと、ずっと頭の片隅で考えていました。

あるとき、ソロキャンプにハマっていた兄の一言がヒントになりました。「お前のところはいいよな。近くにキャンプできる場所がいっぱいあって。もうキャンプ場に住んでるようなもんじゃないか」

その言葉を聞いたとき、ふと気づいたのです。そうか、家でキャンプをすればいいのか。電気もガスも使わず、数日庭で過ごしてみる。それなら、楽しい防災訓練になるかもしれない。

ちょうどその頃、コロナ禍の自粛生活の中で「庭キャン」という言葉が流行っていて、様々な道具も売られていました。

難しい準備は必要ありません。ポンと広げるだけで立ち上がるテントや、裏山の枯れ木を燃料として使える焚き火台。「庭で楽しく過ごすため」の道具は、そのまま「防災のため」の道具としても活用出来たのです。

自分の手で火を起こすこと、風の吹く外で料理をすること。普段とは違うやり方に苦戦しながらも、少しずつコツを掴み、自分たちのどこか野生的な感覚が鋭くなっていくような、人間としてたくましくなったような感覚を覚えました。

夕暮れ時、テレビを消しキャンドルの灯りだけで過ごしてみる。虫の鳴き声や風の音、うつろう空の色。暗くなっていく庭の気配がいつもより繊細に色濃く感じられる。

それは新たな美しさの発見でもありました。

さらに子どもたちは、星を見ながら外で眠ることが非日常の冒険をしているようで、とても楽しそう。不便さを面白がっているようにも見えました。

こんなふうに庭で過ごしていると、思いがけないことにも気づくものです。畑に置いているコンポストの穴は、いざという時には簡易トイレとして使えるかもしれない。

雨水を貯める貯水タンクを取り付けたら、畑の水やりも出来るし、手洗いや洗い物などにも使えそうだな。

庭にはそのまま食べられる果樹があるし、足元には食べられる野草も生えているわ。畑の野菜は、新鮮な備蓄食料にもなるのね。

改めて考えてみると、普段「楽しいから」と続けている暮らしの中に、災害の時に役立つことが自然と含まれていることに気づきました。

特別に準備したというより、好きで続けてきたことが、結果として備えにもなっていた。

以前は、「防災グッズ」なるものを買って用意しておいても、いざと言う時に本当に使いこなせるのか不安なままでした。もし本当に災害が起きたときも、「やったことがある」という記憶があれば、きっと少しだけ落ち着いていられる。

防災って、特別な非常時のためのものではなく、普段の暮らしの中で少しずつ体に覚えさせていく方が良さそうだな、と。だからわが家では、ときどき庭でキャンプをします。

それは、もしもの日のための訓練でもあり、同時に家族と過ごす小さな冒険でもあるのです。楽しんでいたことが、いつのまにか備えになっている。そんな暮らし方が、私にはちょうどいいようです。

織 ORI|かのや主宰

織 ORI|かのや主宰

東京都青梅市にあるおよそ築100年の古民家に、夫と双子とともに暮らす。建築士・インテリアデザイナーとしての経験を生かし、古い建物が持つ美しさを大切にしながら、その人が本当に心地よく生きられる暮らしを、かたちにする手伝いをしている。

文・写真/織 ORI
記事制作/株式会社ZEN PLACE

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