瞑想する女性

がんサバイバーのためのヨガ~どんなフィーリングも永続的ではない。「今はこれで大丈夫」と信じることがカギ

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世界で15年以上がんサバイバーを支えるヨガティーチャートレーニング・タリ・プリンスターがこのたび初来日した。世界で15年以上がんサバイバーを支え、これまで1500人以上の指導者を育てた、Y4C/ヨガ フォー キャンサー(以下、Y4Cとする)の創始者である彼女に、「更年期障害とヨガ、自身も闘い続けるがんと免疫力~がんサバイバーのためのヨガ」をテーマに話を聞いた。

身体の癖やアライメントを知ることで、よりエネルギッシュな自分を感じられる

―ヨガを始められたのは、50歳の頃だそうですが、きっかけを教えてください。
虚栄心が強かったからだと思います。というのも、50歳で閉経を迎え、年老いて見えることを気にしていました。当時、周りのヨガをしている人を見ていて、彼らの姿勢が美しく、柔軟性もありましたので、それが若々しくみえる秘訣なのではと考えました。ヨガを間違った理由で始めたのです。もともと運動好きで、日頃からジョギングをしていましたが、年齢を重ねるにつれて、自分にとってあまり適していないのではと感じていました。ヨガを始めた頃は、まだ精神面も健康への効果も理解していませんでした。
―始まりは、美容への関心がきっかけだったのですね
完全に虚栄心です。
―更年期障害の症状を軽減したいということも、ヨガを始めたきっかけの一つだと伺ったのですが、どのような症状を抱えられてましたか?
更年期障害の症状として、エストロゲン(卵胞ホルモン)やプロゲステロン(黄体ホルモン)といった自然ホルモンの減少が挙げられます。それにより骨が軟弱化、骨量が減少し、背骨の湾曲が強まっていくことがよくあります。私の母も、祖母もかなり深刻な円背だったので「私はそうなりたくない」と思って解決策を探していた頃、ヨガに出会いました。
―更年期を迎えた多くの女性が身体的な症状だけでなく、自律神経失調症や鬱に悩まされます。タリさん自身は、ヨガを実践することで、精神面において、どのような助けになったと感じますか?
精神面の変化がヨガの効果だとはすぐに繋がりませんでした。ただヨガを始めてから、より背中を真っすぐ立てられるようになっただけでなく、身体全体が強くなっていること、感情的にもバランスが取れるようになったことに気付きました。精神的な症状を認識できるようになったのも、ヨガを始めてからだったんです。
―興味深いですね。ではその前は気分が上下することに気付くことも少なかったのですか?
大分前の話ですから、感情的な効果というのも今ほどは把握されてい無かったように思います。私自身がそれを必要としていることもわかっていませんでした。自分の見た目を気にしていたのですから。でもすぐに感情面での効果、内側での効果を感じ始めました。
―倦怠感やのぼせといった身体的な症状に対して、ヨガを通して改善されたことはありますか?
難題ですね(笑)。倦怠感は、ホルモンが不安定なために起こる更年期障害の症状と言われています。まず閉経するとエストロゲンが減少します。エストロゲンは体温を調整する働きがあります。動くことによる身体活動は、血液に酸素量を増やし、倦怠感をとるというリサーチ結果があります。ですからウェルビーイング(健康・幸福)であるということは、身体を動かすことによってできるのです。多くのヨガクラスの構成も、ゆっくりと始まっていき、動きを積み上げていき、やがてクールダウンに向かっていくという健全なものです。私たちはジョギングをしたりジムに行ったりする時、心身回復効果のあるシャバーサナのようなプロセスを行いません。でも癒しの効果が生まれるのはこの過程で、倦怠感も解消されるでしょう。ヨガを終えた時には、始めよりもよりエネルギッシュに感じられるでしょう。
―倦怠感があると動きたくない人がほとんどだと思いますが、実際には動くことが助けになるのですね。
その通りです。それに関してもリサーチが行われています。がんや更年期症状に限らず、一般的に倦怠感のある人をグループ分けし、ひとつのグループには何もしないように言って翌日の状態を聞きます。もうひとつのグループには軽い運動をするように言うのですが、こちらのグループは倦怠感が解消されたのです。
―のぼせについてはどうでしょうか?
ひょっとしたらヨガは直接的な助けにはならないかもしれません。特にホットヨガは(笑)。でも、私がヨガを始めた時、自分身体の癖やアライメントを知ることが大きな気付きだったと思います。身体がどのように働いているのか、心がどのように感じているのか…これは大きな恩恵でした。優れたヨガの指導者は、『今』自分がどのように感じているのか気付きを促すように導いていきます。もしその時に感じていることが、落ち着きのない自分だとしたら、それに気付き、マインドを落ち着かせていこうとします。このプロセス自体が重要です。腰に筋肉痛を感じたとしても、マインドが落ち着くことによって痛みも軽減されるかもしれません。呼吸もその助けになります。アライメントによって、身体感覚を促し、自分の身体が抱える癖に気付いていくというのも、ヨガの大切な要素です。身体感覚を培っていくことは、のぼせと付き合っていくための助けになると思います。自分がのぼせていることを認識できるようになります。「ああ、私はのぼせているんだ。涼む必要がある」と。
ヨガ哲学における強烈な概念で、「どんなフィーリング(感覚、感情)も永遠には続かない」とあります。痛みと共に在り、その痛みもいつかは消えることを理解する。呼吸を使ってマインドを鎮め、神経系の働きも理解すれば、その痛みも変わっていきます。私達は毎日同じようには感じないし、どんなフィーリングも永続的なものではありません。これは、日本における仏教の考え方でもあるのではないでしょうか?

ヨガが「自分の道を見つけられる。と信じること」を教えてくれた

がんの宣告を受けたときの状況についてお伺いしてもよろしいですか?診断を受けた後、ヨガをやめようと思いましたか?
いいえ。手術によって可動域が狭くなり、柔軟性を失い、やめなければいけないのかと不安になりましたが、自らやめようとは思いませんでした。ヨガを諦めなければいけないかもしれないということを案ずる頃、私は「間違った理由」からヨガを始めたことを感じ、その頃から考え方が徐々に変わり始めたのです。がんの診断を受けたことが、それまで私が価値を見出していなかったヨガの重要性の気付きにつながったんです。診断を受け不安感を抱えていても、呼吸することや瞑想がリラックスする助けになりました。ヨガによって、不安と向かい合いながらも「大丈夫。物事はこれからも変わるから」と信じるようにになりました。将来のことを不安視するのではなく、真にこの瞬間を生きることを教えてくれました。昨日できたことができなくなることを恐れるのではなく、「私は今これで大丈夫だ」と呼吸しながら恐怖心と調和するようになりました。
そして最終的に、私は肩の可動域を取り戻し、やりたいことができるようになったのです。ヨガも私に多くのことを教えてくれましたが、がんが多くのヨガの学びをツールとして使うことを教えてくれました。「私は自分の道を見つけられる、大丈夫だ」と信じることを教えてくれました。
タリさん自身はヨガを続けたいと思われたということですが、周囲の反応はいかがでしたか?心配の声はありませんでしたか?
はい。みんな口を揃えて「何もしないで寝てなさい。動いたらダメ」と言いました。私は化学療法を行うことが不安でしたから、事前に友人のヨガ指導者を家に招いて、一緒にヨガを行いました。一緒にヨガをすることで心が落ち着き、ウェルビーイングの感覚を取り戻せました。私はアシュタンガの練習も自己実践することもせず、友人にガイド役を頼みました。誰かが自分を支えてくれることは、とても良いものです。化学療法を受けるとき、医師や看護婦から「とても落ち着いていますね、不安ではないのですか?」と聞かれました。私は「はい、落ち着いてます。ヨガをしたばかりですから」って答えたわ。治療の前にヨガをするようにして、治療後に自宅で自己練習しました。もちろん強度のあるものではなかったけれど、内臓の解毒効果があると言われているツイストを行ったり、たくさんの呼吸法を練習しました。化学療法の薬物ができるだけ早く全身に行き渡る助けをしようと考えたのです。化学療法を恐れ、敵視するのではなく、一緒に働きかけようとしていました。
それは私が生徒たちにも伝えることです。恐怖心というのはごく自然なものです。だけどその恐怖心を無理やり遠ざけようとするのではなく、ヨガの力を借りながら、それに対して向き合い、乗り越えたいです。ブッダの言葉だったと思いますが、人生には様々な障害があり、私たちの行く道にはいつも石があります。それを回り道することもできるし、乗り越えることもできるし、くぐり抜けることもできるし、通り抜けることもできます。ですから恐れに抗おうとするのではなく、それを通り抜けることもできると思います。
―免疫を高めることは病気にならない身体を作り基本だと言われています。Y4Cでも、がん患者やサバイバーの免疫系の働きを向上させることを重視していますが、免疫系がどのようにがんの副作用に対して働きかけるのか教えていただけますか?
がん治療にはいくつかの副作用があります。短期的なもの、長期的なもの、可動域の低下といった居心地の悪さを伴うものもあります。ヨガによって可動域を改善していくことは、免疫系の一部である筋肉・骨格系の働きを助けます。骨は新しい血液細胞ー新しい赤血球、白血球を生成します。骨を強く健康に保つことで、心臓血管系を助けるのです。白血球は、がん細胞と闘うリンパ球の元になります。よりリンパ球が作り出されることで、私たちの免疫系はがん細胞を見つけ抵抗することができます。他の副作用として消化器系の問題が挙げられます。適切に排泄ができるように、消化器系も免疫系においてとても重要です。
もう2つの免疫系における重要なシステムがリンパ系と呼吸器系です。これらは、がん治療の長期的な副作用を取り除いていく助けになります。肺がんを抱えていた人にとって肺活量を取り戻していく大きな助けにもなりますが、呼吸器系は全身にリンパ液を送っていくために大変重要です。長期的な副作用の中で、リンパ節を切除したことによって起こるリンパ浮腫がありますが、これは多くのがん患者にとって生涯にわたる脅威となります。がんの再発を防ぐためにも、呼吸器系を使いながらリンパ液を流動的に保っていくこと、動きを管理していくことは絶対に欠かせません。
先ほどは強調しなかったのですが、化学療法や放射線治療の副作用に骨量の低下があります。骨が軟弱化してしまいます。ヨガにおける立位のポーズは、骨を強化して長期的な副作用を防ぐためにとても重要な役割を果たしています。
―Y4Cについて、もう少しお伺いしたいです。「がんサバイバーのためのヨガ」と聞くと、多くの方が座位のポーズやリラクゼーションや瞑想を連想し、実際のY4Cのアクティブなレッスンに驚くのではないでしょうか?
まさに先日ワークショップの参加者がそう言っていましたよ。ヨガの指導者として、瞑想が自分自身を落ち着かせ、混沌状態から抜け出すための効果があることはすでにご存知ですよね。私たちはがん治療を乗り越えようとしている全ての人達にとって、瞑想が役立つだろうと考えます。確かに瞑想は大きな助けとなり得ますが、同時に大きな副作用もあるのです。がんを乗り越えようとしている時、心は大変なカオス状態にあるので、瞑想することがとても困難なのです。静かに座って、モンキーマインド(心が鎮められず、雑念に振り回されている状態)を落ち着かせようと思っても、様々なことが思い浮かんできます。そして、身体にほんの少しの感覚が生じるだけでも、「ああ、ひざが痛くなってきた。ひざにもがん細胞があるのかもしれない」と考え始めてしまうのです。そうなってしまうと瞑想で落ち着くということ自体、より難しいタスクになってしまいます。健康な人にとってはうまくいくことであっても、がん患者にとってはそうではないこともあります。
ですから通常クラスでは、ほんの短い瞑想しか行いません。数日間にわたる、あるいは週末を使ったリトリートでは、アクティビティを伴う瞑想も取り入れていきます。例えば森を歩く様子を思い浮かべる瞑想や、特定の呼吸法―カウントしながら呼吸を続け、カウントがわからなくなってしまったら、最初から数え始めるなどーガイド瞑想を行っていきます。
Y4Cの【ABC】というコンセプトがあるのですが、AはAwareness(気付き)で、がん患者やサバイバーが求めるものに気付くことを表します。あなたが「必要としているだろうと思うもの」ではありません。リラクゼーションやリストラティブヨガも行いますが、リストラティブのポーズがとても困難であることもあるのです。通常、ヨガをしている人にとって、完全に脱力することは簡単かもしれませんが、患者やサバイバーには様々なことが身体に起こっていますから、リラクゼーションやプラナヤマ(呼吸法)だけを行っているわけでは無いのです。

がんに罹ったことを恥じないで。“オープン・ハート”が導くこと

今回初めての来日になりますが、日本や日本の生徒に対してどのような印象を受けましたか
日本の文化も人々も素晴らしく、几帳面で穏やか、品が良く思慮深いと思います。それと同時に楽しむことも大好きですね。皆さんがとても真面目で几帳面でありながら、遊び心を持ってなんでも楽しめることに驚きました。学びに対する真剣さや思慮深さ、清潔で整理整頓された状態と、ひらめきと歓びのバランスで成り立っている文化だと思います。来日前から日本はとても清潔ですべてがパッケージ化されているという話は聞いていましたが、明るく楽しい一面については知りませんでした。
なるほど。一方で日本は「恥の文化」とも言われています。周囲の人、家族や友人にもがんのことを話せないという人もいます。それは日本とアメリカでは違うのでしょうか?
日本の恥の感覚と理由は、違うかもしれません。アメリカも以前より大きく変わっています。多くのセレブリティ達ががんに罹り、正直に公表するようになったことが大きな理由の一つではないでしょうか。がんを診断されたことを恥じることも恐れることもありません。これもリサーチ結果がありまして、患者に対し情報を隠さずにがんに罹っていることを自身で把握したほうが、より自覚的に、積極的に治癒のプロセスに関わってくることに医師らは気付き始めました。患者らは治療の結果をオープンに受け入れるようになり、憂鬱気分が軽減され、孤立することも減りました。医師は患者に情報を伝えないことが相手を恥じ入らせるだけでなく、治癒を遅らせることにも気付いたのです。心理学の研究で、相手に対峙している病について伝えた方が、難局にうまく対処できることが分かっています。先ほどお話ししたように、障害を避けようとして恐れを抱くよりも、恐怖心やがんと向き合って、一緒に治療に働きかけた方が良いのです。
ーここでも‟気付き”が助けになっているのですね
その通りです。何かを隠し通すことは、状況を悪化させるだけです。ヨガにおいて言う「オープン・ハートでいること」は、「オープン・マインドを持つこと」であり、治癒のプロセスの一部です。それは患者自身だけではなく、彼らの家族にも言えることです。オープン・マインドであることが、より力強い助けとなります。
それにしても、アメリカでも日本でも、なぜがんを‟恥じる”ようになってしまったのでしょうか?私たちはインフルエンザの診断を受けても恥じることはないですよね?単純にウィルスとの接触があったというだけなのですから。がんに罹ったことを恥じること自体、意味が分かりませんね。
ーそれは恐らく、がんに対する正しい知識がないことで、私たちは「不健康なライフスタイルを送っていたに違いない」とジャッジされることを恐れるのではないでしょうか?どうすれば私たちはがんに対する捉え方を変えていけるのか。きちんとしたがんの知識を身につけるということも、解決法の一つではないでしょうか?
私が知る限り、がんを診断されて人が真っ先に考えることは「何が原因なのか?」です。私たちの西洋的なマインドは「ウィルスがインフルエンザを起こすように、がんにも同じような原因があるはずだ」と思うのです。しかし科学も研究も医師も、20世紀に入るまで本当にがんがなぜ起こるのか、ということを理解していませんでした。がんを引き起こしているのは免疫系のエラーです。環境のせいでも砂糖のせいでもない。喫煙は確かに発がんにつながりやすくなりますが、それでもがんというのは私たちの体内の細胞によって起きるのです。免疫系が弱っているとがん細胞と闘うことができません。
大切なのは「私は何か間違ったことをしてしまった」と思わないことです。より良く働きかけていく方法はあるし、治癒し、再発を防ぐ方法はあることを知っておいてください。
今がんに罹っていない方は、がんの治療は受けていないでしょう。それは皆さんの免疫系が皆さん自身を治療しているからです。だけど人生においてそういかないときもあるのです。そうならないことを願ってはいますが。
―スタジオにお越し頂く会員さんの中には、更年期障害や他の病気に苦しむ方もいらっしゃいます。最後にその人たちに向けてメッセージをお願いします。
更年期もがんと同様、通過するものです。それは自然なプロセスです。閉経を迎えた友人と話していましたが、のぼせるようになったそうです。日本人はとても若々しく見えますが(笑)我々白人の皮膚には皺が寄り始めます。骨も弱くなり、はじめ倦怠感を覚え始めます。それに対処する薬物療法もありますが、ホルモン補充療法はエストロゲンを増やし、がんのリスクを高めます。
私からのアドバイス?もちろん、「ヨガをすること」です。骨を強くし、ウェルビーイングの感覚や力強さを感じさせてくれて、更年期障害を乗り越えていく助けとなります。少なくとも私自身は、更年期を終えた時に私よりずっと若い女性たちよりも強く感じたし、神経系も穏やかになりました。
閉経前は月経がありますが、アメリカでは、生理中は気分のアップダウンが激しくなると言われています。日本ではどうですか?あまりそんなことはない?
ー一般的には日本でもそう言われていますね
それはホルモンの影響ですが、更年期が終わればそれも止まります。のぼせもないし、力強くなるし、見た目は若くなかったとしても、気分は若々しくいられますよ!

Tari Prinster(タリ・プリンスター)
New YorkにあるOMyoga講師。
がんサバイバー、ヨガティーチャー、著者、そして、ヨガ専門のクラスやリトリートを通してがんサバイバーを繋ぐ団体、Yoga4Cancer, LLC(Y4C)とthe Retreat Project (非営利)の創始者であり、特別なニーズを要するがん患者・サバイバーにも的確に対応できるヨガ指導者を育成するためのティーチャー・トレーニング・プログラムを指揮監督しています。
<ウェブサイト>
Yoga4Cancer(Y4C) 公式サイト: https://y4c.com/
日本でのプログラム開催はこちら: http://www.yoga-pilates-yosei.com/y4c/

 

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