良い音のカギは骨盤にあり?きっかけはフルート講師の勧めだった
大貫さんは現在58歳。都内の病院に勤めるベテラン脳神経外科医だ。ピラティスを始めたのも2009年の秋というから、そのキャリアは7年近くにもなる。
人の身体を扱う専門家としての関心か、はたまた年齢を意識した健康維持が目的か。ピラティスを始めたきっかけを尋ねると、その答えは少々意外なものだった。
「趣味で通っているフルート教室の先生に言われたんです。『そんなショボい音しか出ないのは骨盤底筋群が緩んでるからだ。ピラティスに行きなさい!』って」
「楽器が演奏したくて教室に通っているのに、なぜ運動?」という疑問が浮かびそうなもの。だが、言われた大貫さんに迷いはなかったという。
「教室に通う以前、別の短期集中のクラスでフルートを習った際に、ボディマッピングというメソッドに触れていたんです。良い音を出すためには良い息が出ないといけない。そのためには身体を整える必要がある。すぐにピンと来ましたね」
<身体地図=ボディマップ>とは、自分の身体の構造や機能、サイズについて、脳が認識している配置図のこと。これが正確であればあるほど、身体の動き自体も正確で無駄のないものになるという。<正確な身体地図づくり=ボディマッピング>は、主に音楽家などのパフォーマーの間で注目されているメソッドのようだ。
「例えばトロンボーンは、スライド管と呼ばれる管を前後に動かして音の高さを変えますが、肩を固定的な概念で捉えているうちは大きく動かすことができません。それが鎖骨から動くようにイメージした途端、スーッと動くようになるんです」
解剖に関して正しい知識を持つことは、人の動きを変える一一。大貫さんは医師として、さらにはボディマッピングを通して、すでにそうした認識を持っていた。
あとは自分の身体で、それを証明するだけ。ピラティスを始めるための”準備”は万端だったと言えるだろう。
塊だった身体が分解される感覚。これは身体の使い方の再教育だ!

すぐにピラティスの気持ち良さにハマり、忙しい仕事の合間を縫って多い時で週3回も通うほどだったという大貫さん。しかし始めてしばらくは、思うように動かない自分の身体に四苦八苦したという。
「身体がひとつの塊のようでした。スキーをやっていたので筋力自体は多少はあったのですが、フォーカスしたパーツだけを意識的に動かすということが全くできなかったんです」
楽器を吹いて良い音を出すためには、骨盤底筋群は締めつつも、同時に首や肩、腕はしなやかに動かす必要がある。インナーマッスルを使いながらも四肢は硬直しないように動かすピラティスは、そのトレーニングとして最適に思えた。
「職業柄、解剖についてひと通り学んではいても、こう動かせばこう動くという身体感覚としては持っていない。身をもってそれを知るという意味では、まるで身体の使い方の再教育を受けているようでした」
では、そうした「再教育」を続けた結果、当初の目的だった楽器の演奏の向上には、どんな効果がもたらされたのだろうか。
「フルートの練習前に1時間のピラティスのレッスンを受けると、音の違いは歴然です。足がピタッと地面に吸い付く。それがすごくいいんです。楽器の演奏には、大地からエネルギーを吸い上げるような感覚が不可欠。なんとなくフワフワ立っているような感じだと、いい音は出ませんから」
とはいえもちろん、ピラティスは限られたパフォーマーのためだけにあるものではない。「音楽や演劇など、特別なことをしない人にとっても同じことは言える」と大貫さんは付け加える。
「身体の正しい使い方を知っていれば、家事なども楽にこなせる分、日常生活においても疲れにくくなるはずです。身体に変な負担がかからなくなるから、腰や肩が痛いということも少なくなるのではないでしょうか」
呼吸は自律神経のバランスを意識的に整える唯一の方法
実は、大貫さんにピラティスを勧めたフルート講師自身は、太極拳や水泳などを嗜みつつも、ピラティスの経験がないそうだ。
なぜ大貫さんに勧めたのがピラティスだったのかは今もはっきりとは分からないままだが、「太極拳もヨガもピラティスも、今にして思えば目指すところはみな一緒なのではないか」と大貫さんは言う。それはつまり、「呼吸を通じて心と身体のバランスを実現する」という意味において。
「仕事などをしていると、どうしても心が不安定になることがありますよね。そういう時にピラティスで身体を整えると、心まで整ってくるのを感じます。ピラティスをやっている時は頭が空っぽになり、モヤモヤがリセットされるんです。おそらくその逆も言えるのではないでしょうか。身体の調子が悪い時は、心を整えることで自然と身体も整っていく。心と身体は表裏一体なんだということを実感しています」
ヨガでもピラティスでも、インストラクターから口酸っぱく言われるのは呼吸の大切さだ。これは、医療従事者という立場から見ても理にかなったことなのだと大貫さんは続ける。
「体調を整えるのには自律神経、つまり交感神経と副交感神経のバランスが大事なのですが、人間がそれを意識的にコントロールする方法はたった一つしかありません。それが呼吸です。心臓の脈拍を自由にコントロールなど出来ないですよね? だからどんなに苦しくても、呼吸だけは止めるなと言われるのです」
良い呼吸をすることが身体の中の良い循環を呼び、それが自律神経のバランスを整えることにもつながっていく。「心」という実態を掴みづらいものを捉える上で、呼吸は私たちが想像する以上に重要なカギを握っているようだ。
少子高齢時代に大切な「未病」。ピラティスはその方法論となり得る

さらに、医療的な観点から見て、「これから先の時代、ピラティスはより大きな役割を担っていくのではないか」と大貫さんは主張する。
「日本の財源はいよいよ底をついて、昔ほど豊かな国ではなくなってしまいました。一方で高齢化は進み、医療費はかさんでいきます。これまで通りに病気になった人に対して良い治療を提供するやり方では、いずれは破綻してしまいます。今後重要になってくるのは、未病という考え方。病気になった後にお金をかけて治すのではなく、病気にならないためにお金をかけないといけないのです。ピラティスはその解決策とまでは言わなくても、一つの方法論にはなり得るのではないかと思うのです」
人は多くの場合、歩けなくなるところから衰えていくという。関節可動域が狭まるとともに行動範囲も狭まり、ちょっとした転倒でも骨折するようになり、寝たきりになり、病気を患う……。もともとリハビリテーションを起源とし、関節可動域を広げるピラティスには、確かに解決の糸口がありそうだ。
今はダイエットや美容など、もともとの興りとは異なる文脈で注目されることも多いピラティスだが、「今後は若い人だけでなく、お年寄りもやったらいいのではないか」と大貫さんは提案する。
「いきなり1時間のレッスンは無理でも、15~30分の短いトレーニングをショートステイに取り入れるといった方法もある。リハビリ療法士や整形外科ではすでに取り入れている例もありますし、私自身も患者さんに勧めたことがありますよ」
改めて、「身体についての正しい知識を持つことが、人の人生をより良い方向に導く」と、実感を込めて強調する大貫さん。その扉は若者にもお年寄りにも、パフォーマーにも主婦にも等しく開かれている。
text by Atsuo Suzuki
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今回大貫さんにお話を伺ったのは、basiピラティス下北沢スタジオ。
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